No.11

 討伐が完了してまもなくリンクを解除したオレたちは、他のメンバーと合流すべく元の道を歩いていた。誘導による戦闘で、元の場所より離れまできてしまっていたのだ。帰りの道が少しだけ長い距離だから、この場にいたのがオレだけじゃなくてよかった。なにより、一人で帰る道よりも二人の方が楽しいに決まっている。

 オレがペラペラとどうでもいいことを喋ると、良輔がぽつぽつと返事をしてくれた。少し前までだったら無視されるか、きっと張り詰めた空気が漂って、心底逃げたくなるに違いなかった。だけど今はそんなこともなく会話は滞りなく進んでいく。ふいに「なんだよそれ」といいながら笑うので、ちら、と隣を盗み見る。楽しそうな表情に、思わず目を細めた。

 しばらく歩いていたが、まだ人の気配はない。あたりは静かで、歩く音とオレたちの声だけが響いている。もう少しで人がぱらついてくるのがわかっているけれど、それも少しだけ、勿体ないような気がした。ふと、視界の端にあった手を思い切って掴む。すると、びくりと肩をこわばらせて、驚きを隠せないと言ったような顔をしながら、口をはくはくと動かしている。魚みてー、といって笑ってやれば、だって、お前、外、と顔を真っ赤にして言うのだった。

「大丈夫だよ。誰もいないし」

 そういってやれば、あたりをきょろきょろと見回し、そうだけど、と言葉を落とした。うそうそ、ごめんって。そういいながら手のひらの力を緩めて、良輔の手を解放してやる。しかし、直後にオレの手は良輔の手のひらによって緩く掴まれていた。掴まれた手を見た後に顔をあげれば、未だ顔を赤くした良輔が、視線をそらしたまま辿々しく口を開く。

「そこの、曲がり角まで、だったら……いい」

 しばらく反応できずにいると、伊勢崎? と様子を伺うような視線をこちらに向けてきた。あんなに拒絶していた頃のことを考えると、なんだかおかしいようで、だけど嬉しくて、こそばゆくて、少しだけ怖かった。

一方的に与えるのはなんてことない。こうして返されると、途端にわからなくなる。

 オレは良輔のことが好きだ。良輔がオレのことをどれくらい好きかなんてわからないけれど、多分オレの好きは良輔の想像とははるか遠くにある、と思っている。だからこうして少しずつ許されていくことが怖くなる。許されることに慣れたら、きっと欲張りになってしまうのはわかっていた。だから、許されない方が楽だったのだ。あのままずっと良輔がオレのことを嫌いでいれば、こんなに怖いことはないというのに。

「おい、繋ぐのか繋がねえのか、どっちだよ」
「っ、つなぐし」
「なんなんだよ、もう」

 知らない間に手は放されていたので、再度慌てて引っ掴んだ。良輔の手は温かい。子供体温、と口走る。うるせーなとすかさず言葉が飛んできたが、棘は紛れ込んでいなかった。

「お前、手、なんかぬるい」
「あーそうかも、寒い?」
「別に」

 きゅう、と緩やかに力を込める。すると、良輔のほうからも柔く力が込められた。温かくて心地いい。また気持ちがこそばゆくなる。同時に、また許されてしまった、と思う。

 曲がり角はあっという間にやってきた。ここまでだと思って手を離して、ふいに良輔の顔を見やれば、少しだけ寂しそうな顔をしている気がして、また心が所在を失ってしまう。嬉しいはずなのに、どこか宙ぶらりんな気持ちになっていく。良輔が知ったら怒るだろうな。ぼんやりとした意識をどうにか追いやると、あの横顔も見なかったことにして、いつもどおりの顔をして明るい大通りへと歩み出た。

「なんか腹減ってきたぁ」
「夕飯まであとちょっとだろ。我慢しろ」
「わかってるってば」

 良輔の反抗的な態度に少しだけ安心する。良輔がいつも通りオレに強く当たってくれたほうが、どうにか地面に足をついていられた。ずっと許さなくたってよかったのにと思うのは、今更ずるい話だろうか。

11月 08, 2020