No.2

 自分、うっといねん。

 そんな言葉を同じクラスで同じ部活仲間で仲良くしとった奴に言われたんはつい先日のことだった。そのせいで今日はなんだか気まずいままに一日がすぎてしまった。ベッドの上、俺は宙を仰ぎながら考える。普通にすごしていて、確かにみんなは優しい。でも白石のいうとおり俺は元気通り越してうっといからもしかしたらみんなに嫌われてるかもしれん。少しそれを考えて、ぞっとする。もしもの話を考えるのがこんなに辛いなんて思ってなかった。まあ、部活にいる生意気な後輩は思っていそうだけど。実際親友に言われるのはなんか言葉が重たくて、ついにはこんなことまで考えてしまうんだから、やっぱり自分的にこたえているんだと認めざるを得なくなる。現実と向き合うのが怖くなって、俺はそのまま目を閉じた。

 朝の日差しが窓からはいり、朝なんだと認識させられる。学校へ行きたくないし、まず腹痛と頭痛がしていけそうになかった。重たい体を無理やり起こして今日は調子が悪いと親に伝えると、ちゃんと寝てないとあかんでといって出かけて行った。なんでも今日はお友達と一緒らしい。行き先も聞いた気がするけど聞いてられるほど元気はなかった。白石たちは今頃、授業やろか。あんな風に突き放されたことをいわれて、昨日あんなに酷いことを想像してしまっても、こんなにも考えてしまうんだから、つくづくみんなのことが好きなんだと思った。もちろん、白石も含めて。なにも食べる気も起きないのでそのまま自室に戻りベッドに戻る。今は、昨日よりも深い眠りにつけそうな気がした。


 夢を、みた。教室で俺たちは椅子に座ってて、白石が目の前の椅子の背を前にしてこっち向いて喋ってる。謙也、すきやで。綺麗な笑顔と一緒にそんなことをいう白石は、なんだか白石じゃないみたいだった。白石は俺にそんなこといわへんから、あ、嘘か、と思った。夢でもこないな風にズタズタな気持ちにされるのであれば俺は寝ずにそのまま死んでしまいたい、と思った。俺こんなに白石のことすきやったっけ。知らんかったなあ、とつくづく思う。白石、と呟いたとき、生温かいものが頬をつたった気がした。そのとき、ダイレクトに響く声。

「謙也」

 目をゆっくり開ければ、そこには先日うっといといった親友の姿だった。なんで、と問いたくなった。相変わらず頭痛はひどいし腹も痛い。それでも俺は脳みそを無理やり動かしてでも考えた。お前、俺いなくて清々したんとちゃうの。そういいたかったけど、声はつぐんだまま。こわかった。親友の姿が、こんなにこわいと思ったことはないかもしれない。何かいわなあかん、と思っていたときに白石が口を開いた。

「体調」
「へ、」
「体調、大丈夫なん」

 そう聞かれて、あ、え、とどもりつつもあんましよくないと応える。白石は、そか、と短く返して、俯いてしまった。こんなに心配してくれているような言葉も本当か嘘か、やっぱり、嘘なんかなあ。そう考えると悲しくなってきてみぞおちの部分がきゅう、とする。考え込みすぎなんだと思うけど、やっぱりこの親友のこととなるとどうしても考え込んでしまう。今の一つ一つの動作だって、言葉だって、なんだって。失いたくないから余計なんだろうけれど。

「なあ、白石」
「…なに」
「なんで、見舞いきてくれたん」

 俺は勇気を振り絞って、聞いた。これが聞けなきゃ話は始まらないと、思った。白石はどう思ってるだろう。愚問だと思ってる?その言葉さえも、うっといと思っとるんかなあ。体調が優れないのも手伝ってか、考えれば考えるほど悪循環だ。白石は表情を変えない。俺が気づいてないだけかもしれないけれど。なあ白石、お前俺を、どうしたいん。そのとき、急に白石がぐいっと俺の腕をひっぱった。その瞬間に感じたのは唇のやわらかい感触。そしてそれは、一瞬のうちで、すぐになくなる。

「しら、い、し」
「俺な、」

 謙也の歪んだ顔が、すきやねん。
 それをいわれたとき、は、と大きな息と一緒に出すことだけで、精一杯だった。おれの、ゆがんだ、かお。反芻して、俺はつぶやく。そう、謙也の泣いた顔、怒った顔、凄く嫌そうな顔、どれもこれも、全部すき。そういった白石の顔は、とても歪んだいびつな笑みだったと思う。俺は親友のことをなにも知らなかったんやなあ。でも、そんないびつな愛情でも受け入れようとしている自分は、多分もっとおかしいのだろうと、相変わらず頭痛で熱をもった頭を絞り出して思ったのだった。

4月 05, 2013 / joy