No.3

 ああいらいらする。なんでこんなに今日はいらいらするんだろ。別になにがいやだとかそういうんじゃない。いや、俺が気づいてないだけなのかな。とにかくいらいらする。あーあどうしてくれんのこの気持ち。

 俺は自分の席に座り眠りにつこうと体制を整える。いらいら、いらいら。なんでこんなにいらいらしてるのか自分でもわかんないから寝ることにした。ほんとなんなんだろ。そしたらあまりにも周りがうるさいからガタン!とわざと音を立てて教室を出てやる。はは、みんなして驚いた顔して、ばっかみたい。俺はそう顔で告げて屋上へと向かった。

 屋上は嫌いじゃないしむしろ好き。世話を任されている花々は綺麗だし、人少ないし、くる人もだいぶ限られてくる。でも今日はちがう。今日の屋上は嫌い。目の前で繰り広げられる寸劇。男子生徒が一人と女子生徒が二人。コイツはあたしの彼氏なんだよなんていかにもいいそうなチャラチャラした片方の女子が気弱な女子に対してガンつけていて残った男子生徒はどうしたらいいかわかんない表情、要するにいかにも割り込んだらめんどくさそうな類のやつ。なんだよせっかく屋上でゆっくりしようと思ったのにこいつらのせいで台無しだよ。仕方なく影に隠れて狸寝入り。あーあもうやんなっちゃうな。この訳のわからないいらいらと目の前の寸劇何もかも全部がいやになる。気づいたら本当に寝てしまって次の授業はサボる形となってしまった。やっちゃったな、と思うけどどうでもいい。今は気分を落ち着けることが先決だ。

 さすがに授業は受けるのか既に目の前の寸劇はなにもなかったかのように人っ子一人いない。ひとりだけのこの屋上で、もう思い出せないと思いつつ考えたんだ。俺なんでこんないらいらしてるんだっけ。いつから?たぶん、昨日だ。朝も寝起きが悪かった。そう考えた瞬間、思い当たるものを思い出す。昨日の放課後。帰り道。丸井が告白を受けていた。あー確実にこれだと思い起こしてくだらないとひとり愚痴る。だって、まさかいらいらの理由が思いを寄せている相手が告白されてたからとか、すごい恥ずかしい。しかも相手丸井だし。そういえばなんで丸井なんて好きになっちゃったんだろ、自分でもわからない。でもどこか惹かれるんだよなあ、とあの笑顔を思い出しながらふふ、と笑みがこぼれる。なんかいらいらしてたこともどうでもよくなってきてしまって、改めて恋というのはすごいと思った。でもやはり丸井が告白されてたのはいただけないなあ、受けたのかな。まああの女の子ちょっとかわいかったし受けたかな。そんなことを考えていたら影から俺を呼ぶ馴染みのある声。幸村くんなにしてんの。丸井だ。なんでこういうタイミングでくるかなあ、ほんと空気の読めないやつ。

「ああ、丸井か。別になにもしてないよ」
「何もしてないってことはないだろい?」
「ほんと、なにもしてなかったって」

 強いて言うならサボってたってところかな。そんなことをいっててきとうにごまかす。ごまかすというか、事実だから別に俺は間違ったことはいっていない。へえ、なんか意外。そういって俺の隣に座る丸井を横目に、自分の脈拍が早くなったことに気づく。そして落胆。チームメイトに対してこんな感情抱くなんてほんと無様というかなんというか、まあ真田とかじゃないだけまだいいか。しかしほんと、さっきも思ったけどなんで丸井なんだろ。解決させた話題のはずなのに、結局納得がいかなくてもう一度掘り起こす。改めて隣に座っている丸井の横顔を見た。意外と長い睫毛、綺麗に染められた赤髪。かわいらしいけど、男であることを感じる。みていたら、なんとなく甘そうだと、思った。丸井は甘いものが好きだから甘そうとか、そういうんじゃなくて。元から骨の髄から甘そうだと思った。

「丸井はきっと食べたらゲロ甘だろうね」
「は?何言ってんの幸村くん」
「いや、こっちの話」

 そういって丸井に不意打ちで口づけをくれてやる。触れるだけだったのに溶けそうなほどに甘い気がした。唇が離れたときの丸井の驚いた顔ったら本当笑うしかない。その顔を見てしたり顔をする。ほら、やっぱり丸井はゲロ甘だよ。そしたら顔を真っ赤にして幸村くんの馬鹿!なんていうもんだからたまったもんじゃない。嫌だった?と問うてみる。嫌じゃない。とぎれとぎれでとても小さな声だったけど、確かにそう聞こえて俺は心の底から嬉しい気持ちがこみ上げてきて、ふわふわと宙を舞う。幸村くんも甘いよ、ゲロ甘。なんだ、人のことはいえなかったみたいだね。でもこれは今だけで、結局片思いのままだ。ていうかまず本当に受けたのかな。つーかまず告白じゃなかったらどうしよ、俺超恥ずかしい。ねえ丸井。なに、幸村くん。お前昨日告白されてたんじゃないの。

「ああ、断ったよ」

 だから、気にせず幸村くんでいっぱいにして。柔らかい、丸井の笑顔。俺はこの笑顔が好きだ。そして俺はもう一度、目の前の想い人にキスを送る。なんとなくだけれど、なんで丸井が好きなのかわかった気がしたんだ。このまま俺は嫌なことなんて本当になかったかのように、恋に陶酔していくんだと思う。それもまた、悪くないと思った。

4月 14, 2013 / ごめんねママ