俺は多分今は夢の中にいるのだ。そこはふわふわしていて、しいていうなら無重力といったところかもしれない。ふわふわ、ふわふわ。足元が妙に浮ついていて、足を進ませにくい。景色は藍色から白へのグラデーションのようになっている。こんなところ、多分、夢でしかありえない。どうして俺はこんなところにいるんだろう。夢だからだ。じゃあ、夢の中の俺はどうしてこんなところにいるのだろう。ふと考えた時によぎったのは、綺麗なミルクティー色をした髪の毛のあいつの顔だった。ふわり、と笑って、謙也、と優しい声で話しかけてくる。白石は、どこにいってしまったのだろう。 目を開けると、眩しい光が差し込んでいた。やはり、夢だったのだ。でも、白石がいないのは夢じゃない。白石は一週間前から姿を消した。その連絡を受けたのは昨日のことで、信じられなくて頭が真っ白になった。けれど、時間が止まってくれるわけでもないのだ。白石のことを探したくても、学校に行ったり部活に行ったりで探しに行くことはできない。サボればいいんだろうが、もしここに白石がいたら、きっとサボろうとする俺を止めるだろう。だから、俺は普通に学校へ行く。白石のためにも。 授業中、ずっと白石のことを考えてた。白石になにがあったのか、俺には全く検討がつかない。何せ白石は人にそういうところを見せないのだ。だから白石は俺たちの目の前から静かにひっそりと、消えたのだ。でも、やっぱり平静は装いきれなくて、今日の放課後の練習では調子は良くなかった。財前は調子悪いんなら帰ったほうがええんとちゃいます?と珍しく気を使ってくれた。財前もいつもどおりに見えるけど、ぼうっと立っていたり、呼んでも気づかなかったりで、きっと内心はあまり穏やかではないのだと思う。それは財前だけに越した話ではない。みんな今日はそんな調子なのだ。俺を含めて、みんな白石が心配なのだ。 今日の夜、また夢をみた。今日もまた同じ空間で歩く俺は、何を探しているのだろう。しかし、今日は別の足音がする。そして、ダイレクトに聞こえる声。謙也。振り返れば、あのミルクティー色の髪の毛のあいつが立っていた。白石。なあ、白石、帰ろう。そういった俺をみて、白石はかなしそうに笑って、ごめんなあ、とだけ言った。その瞬間に、すうっと白石は光にになって、俺の目の前から消えた。白石、白石。なあ、お前、今どこにおるん。 翌日の放課後、日誌の当番だった俺は目の前にある日誌につらつらと書き連ねていく。今日あった出来事を淡々と。白石がいなくなった日からの日誌を意味もなく読み進めた。白石がいなくても時間は進んでいるのだ。白石、だから早く戻ってきて。俺はお前がいないとなんもできひん。だから、だから。俺はそのまま伏せて夢に落ちていってしまったのだろう。またあの光景がきらきら光って俺の周りに広がっている。そして、目の前には白石。もう授業もすすんだ。部活のみんなだって強くなってきてる。みんなに追い越される前にもっともっと強くならなあかん。だってみんなの大好きな白石には一番であってほしいやろ?だから、早く、帰ろ。泣きながら俺は懇願したけれど、白石は悲しそうに笑って目の前から消えた。そのとき、耳に聞こえたのは財前の声で。謙也さん、泣いてはるんですか。そう言われて目元を触ると、濡れた筋に触れた。ああ、俺は、白石のために泣けたんやな。そう思って目を閉じる。ごめんな白石、もう戻ってこないってわかってる。みんなの気持ちだって心配という類のものではなかったのも知ってる。それでも葬儀の日、俺は泣けへんかったんや。だから俺は、今お前のために泣けてよかったって、思ってる。1月 06, 2014 / 水母
目を開けると、眩しい光が差し込んでいた。やはり、夢だったのだ。でも、白石がいないのは夢じゃない。白石は一週間前から姿を消した。その連絡を受けたのは昨日のことで、信じられなくて頭が真っ白になった。けれど、時間が止まってくれるわけでもないのだ。白石のことを探したくても、学校に行ったり部活に行ったりで探しに行くことはできない。サボればいいんだろうが、もしここに白石がいたら、きっとサボろうとする俺を止めるだろう。だから、俺は普通に学校へ行く。白石のためにも。
授業中、ずっと白石のことを考えてた。白石になにがあったのか、俺には全く検討がつかない。何せ白石は人にそういうところを見せないのだ。だから白石は俺たちの目の前から静かにひっそりと、消えたのだ。でも、やっぱり平静は装いきれなくて、今日の放課後の練習では調子は良くなかった。財前は調子悪いんなら帰ったほうがええんとちゃいます?と珍しく気を使ってくれた。財前もいつもどおりに見えるけど、ぼうっと立っていたり、呼んでも気づかなかったりで、きっと内心はあまり穏やかではないのだと思う。それは財前だけに越した話ではない。みんな今日はそんな調子なのだ。俺を含めて、みんな白石が心配なのだ。
今日の夜、また夢をみた。今日もまた同じ空間で歩く俺は、何を探しているのだろう。しかし、今日は別の足音がする。そして、ダイレクトに聞こえる声。謙也。振り返れば、あのミルクティー色の髪の毛のあいつが立っていた。白石。なあ、白石、帰ろう。そういった俺をみて、白石はかなしそうに笑って、ごめんなあ、とだけ言った。その瞬間に、すうっと白石は光にになって、俺の目の前から消えた。白石、白石。なあ、お前、今どこにおるん。
翌日の放課後、日誌の当番だった俺は目の前にある日誌につらつらと書き連ねていく。今日あった出来事を淡々と。白石がいなくなった日からの日誌を意味もなく読み進めた。白石がいなくても時間は進んでいるのだ。白石、だから早く戻ってきて。俺はお前がいないとなんもできひん。だから、だから。俺はそのまま伏せて夢に落ちていってしまったのだろう。またあの光景がきらきら光って俺の周りに広がっている。そして、目の前には白石。もう授業もすすんだ。部活のみんなだって強くなってきてる。みんなに追い越される前にもっともっと強くならなあかん。だってみんなの大好きな白石には一番であってほしいやろ?だから、早く、帰ろ。泣きながら俺は懇願したけれど、白石は悲しそうに笑って目の前から消えた。そのとき、耳に聞こえたのは財前の声で。謙也さん、泣いてはるんですか。そう言われて目元を触ると、濡れた筋に触れた。ああ、俺は、白石のために泣けたんやな。そう思って目を閉じる。ごめんな白石、もう戻ってこないってわかってる。みんなの気持ちだって心配という類のものではなかったのも知ってる。それでも葬儀の日、俺は泣けへんかったんや。だから俺は、今お前のために泣けてよかったって、思ってる。
1月 06, 2014 / 水母