照りつける日差しと止まることなく流れる汗にうっとおしさを感じる。夏も中盤にさしかかり、暑さも拍車をかけていて、さらにそんな暑い日に親からの頼まれごとでわざわざ外に出るなんてことは一層眉をひそめる原因となっていた。毎日部活で忙しい自分に、たまには親孝行しなさいといった母親を恨めしく思う。親孝行は別にいいがなんで今日なんだ、こんな日は涼しい環境の中ベッドの上でゆっくりしたいのに。炎天下の中、俺はやり場のない苛立ちを募らせていた。ほんと、嫌になる。そういえば昔にもこんなことがあったとふと思い出した。あの時も親からの頼まれごとで外へ出たのだ。そのときは、近所の通り道で影山飛雄に遭遇した。バレーボールを持っていたあいつに、何してんのと聞いたのは愚問だったと思う。あいつは小さな声で、練習してた、と答えたような気がする。昔の話だからあまり覚えていないが、どうしてこんなときによりによってあいつのことなんか。また苛立って、頭から掻き消すように意識する。今日は散々だな、と改めて思った。 やっと街に辿り着き用事を済ませた頃にはお昼時になっていた。しかし腹が減っているわけでもなく、とりあえず暑さしのぎに近くにあった大型店舗へと入る。入った瞬間に感じる冷気に、思わず天国かと呟いてしまった。近くにあったベンチに座って一息つくと、心なしか少し楽になった気がした。あたりをみると多くの人で賑わっていて、こんな暑い日でも出かけたくなるもんなのか、と理解できない気持ちをため息で吐き出す。座ってぼんやりしていてもいいが、ここでずっと座っているわけにもいかないので、せっかくきたのだからとぶらぶら店の中を見て回ることにした。人の流れに身を任せて歩き、目に止まった靴屋に足を向ける。ここの一店舗であるスポーツ量販店へと出向いてもいいのだが、なんとなく嫌な予感がして、やめた。しかしその嫌な予感は既にここにくる前に気づいておくべきだったのだ。すぐ近くから国見?と声をかける、聞き覚えのある声。振り返ると、驚いた顔の影山飛雄が立っていた。 ここじゃなんだからとファストフード店へと入った俺達は、簡単に注文を済ませ、てきとうな席へと座った。そこまではよかったのだが、ふと何故こいつと一緒にこんなところへきてしまったんだと思い返す。あそこで別れておけばよかったものの。ため息をつけばあからさまに肩をこわばらせた影山にまた苛立ちを募らせる。「あのさ、何をそんなにびくびくしてんの」「別に…」 何が別になんだ。明らかに自分に対してびびっていることは目に見えてわかる。自分の態度がこんなんだからなんだろうが、それにしたって。本当なんでこいつと一緒になんかきちゃったんだろうとぼんやり考えながら注文したジュースへと手を付ける。冷たくて甘い液体が喉を通るのが心地いい。少し落ち着いたところで未だに俯いてそわそわしたままの向かいの席に座る奴に声をかける。お前今日なにしてたの。びくりと顔をあげて、またきょろきょろと落ち着かなくなる。そしてまた、あのときのような小さな声で、サポーターとか、そういうの見に来た、と答えた。ふうんと一言返す。こいつはいつだってバレーばっかだなと改めて思いながらまたストローへと口をつけた。国見は、と控えめにきいてくる影山に、親の頼まれごとと答えると、影山もまた、ふうんと返した。こいつはコミュニケーションが苦手という以前に、多分昔のこともあって、こうやって俺と話すのは気持ち的にも憚られるのかもしれない。まあ俺も同じようなもんというか、あまりこいつと積極的に話す気にはなれないのだけれど。影山がよくくるのか、と尋ねてきた。多分この大型店舗のことだろう。別に、今日はたまたまと答えればそうか、といった。 そんな調子でてきとうに会話を続けていて、そろそろ時間だから、と影山は切り出した。そう、といって二人で店内を出る。じゃあ、というと、影山はおう、と返した。「またな」 目を見張った。視線を逸らしたままぽつりと言ったっきり踵を返し歩いて行く後ろ姿は多分俺がどんな顔なのかも、どんな心境なのかも、察することはできないだろう。なんだよまたなって、この次があるっていうのかよ。さっきまで俺といて終始落ち着きがなかったくせに?それでも、あいつは次があるということを残していった。あの時間に取り残されたのは自分だけなのかと思ったら、なんだか悔しくなって、なんだよそれ、と独りごちる。そういった俺の口元がほんの少しだけ緩んでいたことは、俺だけが知っていれば十分だと思った。8月 12, 2014 / ごめんねママ
やっと街に辿り着き用事を済ませた頃にはお昼時になっていた。しかし腹が減っているわけでもなく、とりあえず暑さしのぎに近くにあった大型店舗へと入る。入った瞬間に感じる冷気に、思わず天国かと呟いてしまった。近くにあったベンチに座って一息つくと、心なしか少し楽になった気がした。あたりをみると多くの人で賑わっていて、こんな暑い日でも出かけたくなるもんなのか、と理解できない気持ちをため息で吐き出す。座ってぼんやりしていてもいいが、ここでずっと座っているわけにもいかないので、せっかくきたのだからとぶらぶら店の中を見て回ることにした。人の流れに身を任せて歩き、目に止まった靴屋に足を向ける。ここの一店舗であるスポーツ量販店へと出向いてもいいのだが、なんとなく嫌な予感がして、やめた。しかしその嫌な予感は既にここにくる前に気づいておくべきだったのだ。すぐ近くから国見?と声をかける、聞き覚えのある声。振り返ると、驚いた顔の影山飛雄が立っていた。
ここじゃなんだからとファストフード店へと入った俺達は、簡単に注文を済ませ、てきとうな席へと座った。そこまではよかったのだが、ふと何故こいつと一緒にこんなところへきてしまったんだと思い返す。あそこで別れておけばよかったものの。ため息をつけばあからさまに肩をこわばらせた影山にまた苛立ちを募らせる。
「あのさ、何をそんなにびくびくしてんの」
「別に…」
何が別になんだ。明らかに自分に対してびびっていることは目に見えてわかる。自分の態度がこんなんだからなんだろうが、それにしたって。本当なんでこいつと一緒になんかきちゃったんだろうとぼんやり考えながら注文したジュースへと手を付ける。冷たくて甘い液体が喉を通るのが心地いい。少し落ち着いたところで未だに俯いてそわそわしたままの向かいの席に座る奴に声をかける。お前今日なにしてたの。びくりと顔をあげて、またきょろきょろと落ち着かなくなる。そしてまた、あのときのような小さな声で、サポーターとか、そういうの見に来た、と答えた。ふうんと一言返す。こいつはいつだってバレーばっかだなと改めて思いながらまたストローへと口をつけた。国見は、と控えめにきいてくる影山に、親の頼まれごとと答えると、影山もまた、ふうんと返した。こいつはコミュニケーションが苦手という以前に、多分昔のこともあって、こうやって俺と話すのは気持ち的にも憚られるのかもしれない。まあ俺も同じようなもんというか、あまりこいつと積極的に話す気にはなれないのだけれど。影山がよくくるのか、と尋ねてきた。多分この大型店舗のことだろう。別に、今日はたまたまと答えればそうか、といった。
そんな調子でてきとうに会話を続けていて、そろそろ時間だから、と影山は切り出した。そう、といって二人で店内を出る。じゃあ、というと、影山はおう、と返した。
「またな」
目を見張った。視線を逸らしたままぽつりと言ったっきり踵を返し歩いて行く後ろ姿は多分俺がどんな顔なのかも、どんな心境なのかも、察することはできないだろう。なんだよまたなって、この次があるっていうのかよ。さっきまで俺といて終始落ち着きがなかったくせに?それでも、あいつは次があるということを残していった。あの時間に取り残されたのは自分だけなのかと思ったら、なんだか悔しくなって、なんだよそれ、と独りごちる。そういった俺の口元がほんの少しだけ緩んでいたことは、俺だけが知っていれば十分だと思った。
8月 12, 2014 / ごめんねママ