No.7

 ぼんやりと宙をみつめていたときにふと目にとまったのがモンシロチョウで、ひらひら舞ってるそれを目で追いかけては不思議とふわふわと浮ついた気持ちになった春の日の午後。しかしそのふわふわとした気持ちはモンシロチョウのせいではなく、青い春というものにまんまとのせられた所詮恋のせいだった。それもそのお相手は中学から一緒のあのらっきょ頭ときた。自覚をしたときはホモかよ、と一瞬思いもしたが、そうか俺は金田一のことが好きなのか、とあっけなく納得した。俺だってしいていうならかわいくて柔らかい女の子が好きだ。でも、金田一が喋っている時にみせた笑顔、理解しきれなくて頭に疑問符を浮かべる一瞬、なにかの瞬間ごとに頭はふわふわとした気持ちになって、挙句の果てにはかわいいなどと思ってしまう。ついつい目で追って、目が合えばどうした?と声をかけてくる。その度に俺はなんでもねえよと返した。モンシロチョウをみながらのんきだなと思う。何も考えず、ただただふわふわと飛んでいたい気持ちになった。


 今日は部活中もなんとなくふわふわとしていて、コーチにいやというほど怒られてしまった。いつものことだけどお叱りもいつもより頭に入らなくて、追い打ちをかけられてしまったのだ。部活終わりに、国見ちゃん何か悩み事?なんて及川さんが聞いてくるから別に何もないですよと返す。及川さんに知られたら流石に面倒なことは言わずもがなである。しつこく聞きだそうとする及川さんにうるせえ!と岩泉さんが制裁を加える。相変わらずの光景だとぼんやりと思いながら、少しだけほっとした。

「悪いな、国見」
「大丈夫です」

 かえろ、金田一。突然ふられたことに戸惑いを見せつつも後ろをついてくる。お先に失礼しますと言って部室を出た。

「なあ、国見」
「なんだよ」
「今日、なんかあった?」

 は?と少し眉をひそめる。及川さんがああいうのもなんとなくわかるっつーか、なんか変、と金田一は言った。別になにもないけど。また同じように返すと、そればっかじゃん、ともらした。そろそろ言い訳が効かなくなってきたなと思いながらそんなことないってとはぐらかす。金田一のほうをちら、と伺うと、なんとなく表情はかげっていて、心配させたかもしれないと少しだけ反省した。かといって正直にお前が好きでそれでぼんやりふわふわしちゃってるなんて言えたもんじゃない。別に金田一が気に病むことじゃないって。金田一の肩をたたけば、納得がいかなそうにあっそ、と言った。


 やっぱ変、と金田一は言った。今日は月曜日で部活は休みで、そのまま金田一と家路を歩いていた。数日がたって、流石に部活での調子には影響しなくなっていた。それでも俺はいつまでもふわふわとした気分が抜けないままでいたのだ。何が、と返す。お前こんなに察しいいやつだったっけ。他にもぼんやりといろいろと思い浮かんだけど、それら全部を抑えこんで平然を装った。

「なんとなく。よくわかんないけど」
「すげー面白いくらい伝わってこない」
「でもホントに、言葉にしにくい」
「なんなんだよ」
「どういえばいいのかイマイチピンとこないけど、なんか、」

 ぽやっとしてる。それを聞いた俺はついつい吹き出してしまった。お前がなんなんだよ!と顔を赤くして言ってくる金田一を目の前にして笑いが止まらない。なんだよぽやっとしてるって、効果音間抜けすぎかよ。

「伝わってこないっていうから!」
「それでもぽやっとしてるはないだろ」
「俺にはそう感じたんだよ!」

 心配して損した、と金田一は少しうなだれた。心配したり顔真っ赤にして必死になったりうなだれたり金田一は忙しいやつだ。俺が変な理由がお前のせいって知ったらどんな顔をするんだろう。俺の言葉にいちいち反応してくれるだけで幸せなのかも、と春にやられた頭で馬鹿みたいなことを考える。俺さあ、お前のこと好きなんだよね。そう言えば、は!?とすごく驚いた表情でこちらを向いた。期待通りで嬉しくなって、俺はまたふわふわとした気分になった。

1月 29, 2015