グルハル
いつでも、分かったようなふりをしている。相手は子供だから。ぼくに勝っても変わらずに純粋な眼差しを向け、ぼくの名前を呼んでいるのをみて、合点がいったように受け取って当たり障りのない態度をした。ぼくは一体、この子のことを。そう考えた時にハッとして頭を振り切ってなにもなかったように接した。雪山はいつ奈落の顔を見せるかわからない。彼と接している時も同じだと思った。分かったようなふりだけで、いつまで持ち堪えられるのだろう。いつかの事故みたいに、再起不能なまでにまた突き落とされてしまうかもしれない。足を踏み外すかもわからない。そういう緊張感が自分の中に存在している。ぼくの名前を呼ばないでくれ。嘘、本当は、もっとたくさん、呼んでほしい。ぼくは、この子のことが。
2月 03, 2023