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No.22

主♂N


 隣で横たわり眠っているNをみて、そのまま呆然と空を見上げた。Nがこのパシオにきてしばらくの時が経とうとしている。こういう頭が空っぽになったときは、あんなに探しても出会えなかったものだから、Nがいつかまたぱったりと姿を見せなくなってしまうのではないかとそんなことばかりがよぎった。隙を狙ったかのように、ぼくの頭はフラッシュバックする。ぼくたちは友達であることは確かだけど、互いを縛るほどの不自由な関係じゃない。ぼくは多分、また早口に勝手なことをいわれて、会えなくなってしまうことを勝手に想像して、寂しがっているだけだ。あれだけ念を押したからきっと次は、そんなサヨナラはないと思うけれど。やっぱり子供っぽすぎたかもしれないと思うこともある反面、あのときちゃんとはっきりいったことは後悔していなくて、ただそんなことを思ってしまうくらいには、掴めなくて風のように自由な存在にみえた。ずっとあの狭い部屋にいたのだとしたら、Nにとってそれは悪いことじゃない。

「でもやっぱり、会えなくなるのはさみしいね」

 次にNがパシオから旅立つ時、ぼくは笑って送り出さなければならない。ぼくだって同じだ。もっと広い世界をみてみたいから、きっと旅に出る。でもそれとは別に、Nともう一度会うことが難しいように感じるからこそ思うつなぎとめたい気持ちがあった。ぽつりと呟いた言葉が風に流され溶けて消える。Nが起きてないことをそっと確認すると、ぼくも同じように横たわった。高い空に自分のもやもやした気持ちが消えていくわけではない。子供っぽい考えが少しだけかっこわるくて、今度こそ笑われてしまうかもな、と思った。いや、Nは意外とそういうことを、笑ったりはしないかもしれないけど。わかるのは、折り合いをつけられないでいる子供が自分の中にいるということだけだった。

3月 11, 2023