text_top

No.22, No.21, No.20, No.19, No.18, No.17, No.167件]

となりの

※リクヒロ+カザ

 あいつらのことはあいつら自身で考えることで、俺が口出してなにか言うことじゃない。いや、正直口出したくてしょうがないけど。ヒロトがビルドダイバーズのリクに対してなにもしないのがもやもやして、そんなに気になるなら一回話したらいいだろと頭ごなしに言いそうになる。でもそれが悪手なのはわかってたし、ヒロトだって別にリクと話をしていないわけじゃない。互いに避けているわけでもなく、はたからみても普通に友達に見えている。ただ、そんな簡単な話じゃないってだけだ。こっそりユッキーから話を聞いたところによると、どうやらリクの方がヒロトと微妙な距離を置いているらしかった。ヒロトはといえば、気を抜いていれば気づかないがおそらくものすごく慎重に物事を運ぼうとしているというのがなんとなくわかっていた。普段のGBNでの攻略スタイルと変わらないのがあいつらしいといえばそうだけど、正直みていてやきもきするのが本音だ。でもヒロトがまた後悔することになるのは俺も嫌だったし、かといって、俺たちに特になにも言わないのもなんとなく嫌だった。困ってんなら少しくらい相談してくれてもいいんじゃねーの。俺らにそんなに言いづらいか?そうやって何度も思ったけど、結局、そういうことじゃねーのかもなと話に聞いただけのELダイバーとヒロトのことを思い出していた。
 お前が口数少ないのはわかってるよ。でもやっぱり気になるだろ。俺達バラバラだったけど一緒にやってきただろ。だから少しくらい話きいてやらなくもないんだよ。分かれよ。俺は散らかった言葉を全部飲み込んできた。だから今日ファミレスに呼び出され、二人でコップに入ったコーラを挟んで向かい合ってるのが少し嬉しかった。「カザミ」おう。「今日は相談したいことがあって」おう。「大したことじゃないんだけど」そうやってようやくヒロトは思っていた通りのことを話し始めた。そう、それでいいんだよ。話くらい聞いてやるから。わかるだろうけど、パルもメイも聞いてくれるよ。なあ、もっと話せよな、お前のこと。

2月 26, 2025

春の惑星


 きみのすきは大きすぎて、それを受けると大きな布に包まれてるみたいだと思う。部屋のカーテン、お気に入りのブランケット、そういった類と一緒にきみのすきが並んでいる。春風みたいにやってきて、あっという間に全身を包んだら内側の温度がゆるやかに上がっていく。うたたねだってかんたんにできるよ。俺のことをすきだというのが伝わってくるたび、俺はゆだねるようにまぶたを閉じる。もらってばかりだからなにかしたくて、でも俺がきみになにかをしたら加減が効かずに離れてしまうんじゃないかって。いつもそう。なにか間違って、俺のところに不時着しているのかもしれないとふとした瞬間に思って、いつの間にかひどい嵐がやってくる。泣いているのかもしれない。きみにだけはうまくいかない。ぬるい風がごうごうと吹いていて、きみの手の感触だけがたよりになる。過ぎ去ったらきみのことを抱きしめたいと思うのに、晴れ間が見えたらすぐさまきみに名前を呼ばれて、また返せないまま立ち尽くしてしまう。きみが目を細めて笑うのがすきなんだ。一言いえばいいのにね。また俺だけが、まどろみの中だ。

2月 13, 2025

それから


 コーヒーを頼んでいるきみは砂糖もミルクも何もいれない。俺は注文したコーヒーになみなみとミルクを入れる。角砂糖も一つ入れた。ドリンクバーでソフトドリンクを飲むような感覚でいるからきみが少しだけ大人びて見えて、俺に向き合ってくれるのがなんとなく子供扱いされているような気がしてくすぐったい。それが少しだけ遠く感じる。遠ざけていたのは俺かもしれないけど。それもやっぱり、子供っぽいのかもしれない。ヒロトって大人っぽいよねと言ったら、そんなことないよと少し困ったように笑う。この前もフォースのメンバーとガンプラのことで言い合いになったらしい。それは確かに、なんか意外。あれもこれもと聞いていたら、もう一つのビルドダイバーズのみんなは当然俺の知らないヒロトをたくさん知ってるんだとわかって、なんだかちょっとうらやましくなってきた。(そしておそらくいろんなことを逡巡した後に)全然大人なんかじゃない、と言う。そのとききみが何を考えたのかなんとなくわかって、はじめてちゃんと喋ったときのことを思い出した。遠くにいたきみが自分と横並びになった気がして少しだけ口元が緩んでしまう。ずるいやつだと思う。だけどそういう近いところにいるきみがかわいく思えてきて、でも一個上のお兄さんみたいに思えるきみもやっぱり好きだった。俺、ヒロトのこと好きだ。いつもだったら絶対に閉じ込めるのに、今ならいいか、と思えた。何にやけてるの、と少し訝しんでいるきみに、好きだなって思っただけ、と言う。きみは驚いた後よくわからないみたいな顔をしていたけど、すぐにゆるんでしまった口元を誤魔化すみたいにカップの縁をつけた。きみのカップに中身が残ってなかったのを思い出して、また少しだけ笑う。

2月 8, 2025

fogbound

※ケーキバース/ヒロトがフォーク
pass

流線


 きみと歩く。指先で線をなぞるみたいに、いつもの遊歩道を辿っていった。この道をきみと歩いているのがなんだか不思議だった。誰とでも可能性はあるはずなのに、きみのことは良くも悪くも特別だったから。重ならないと思っていたのかもしれない。重ならないと思っている、のかもしれない。なんでもないことを話している。口先は軽いのに、なんとなくどこか重さを伴って歩いていた。きみへの「すき」は一筋縄じゃいかなかった。強く固く結ばれたそれを、奥にあるものを壊さないよう丁寧にほどいていく必要があった。きみは容赦がないように見えて、結構足音を立てない歩き方をする。靴の跡をおれに残さないようにするみたいに。そのやさしさがくすぐったい。輪郭をなぞられている。心臓にふれるきみの手が、脳裏に焼き付いて離れない。自分で許したはずなのに、きみと距離が近づくと自分でなくなる気がしていた。こんなに溶け合うなんて、知らなかった。

1月 26, 2025