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No.17, No.16, No.15, No.14, No.13, No.12, No.117件]

無能 / 吹雪士郎


 うつくしくいきてね。それがどういうことなのか皆目見当もつかないものだったけれど、うつくしくいきて、とずっと言われていたから、ボクはずっとそうあろうとしていたし、鏡の前で話すお前も、ずっとボクにいいつづけていたよね。ボクは、今もうつくしいですか?凍てつくような寒い冬、止まない吹雪、ボクの中の永遠。全部、ずっと焼けるように痛かった。北ヶ峰のあの場所で、立ち止まったまま、時間だけが過ぎていく。鏡の中のお前は、いつかボクを、跡形もなく殺してしまうのかもしれない。でもボクはそれが許せなかったから。うつくしくいきる。お前の首を絞めることもできないまま、ただ痛みに耐えたまま、そうして夢の中、ボクは。

無能 / österreich より
イナズマイレブン 第45話 を観て

9月 08, 2022

遠き星より / 基山ヒロト


 ぼくたちは宇宙人でした。ぼくらは陽のもとであるがままの姿へと形を変え、今を生きることになりました。止まった時間は軋みながら動き出した。あるがままの、その姿の時間を。
 忘れたいことも、忘れられないことも、忘れたくないこともたくさんあるよ。だけどオレたちは星の子らとして生きたこと、きっと絶対に、忘れることはない。たくさんの瓦礫、あのぼんやりとした石の光、あたたかな光、やさしいこころ。
 ぼくは。ぼくは、私は、オレたちは、あなたを愛しています。遠き星エイリアより、愛を込めて。

9月 08, 2022

類司


 類の歌声が好きだ。セカイで歌をうたうとき、耳にやわらかな声が入り込んできては、周りを楽しませたいという感情が滲むのだ。その時は類自体もすごく楽しそうだったし、類がこちらを見て笑う時、楽しくてしょうがないといったような顔をしているので、オレも思わず楽しくて笑ってしまう。それはきっと、瞬きの中のような、夢の時間。
 ネバーランドは永遠じゃない。そうやって、まるでわかっているようなふりをする。あと少しだけ微睡にゆだねていたいこと、類は許してくれるだろうか。

9月 01, 2022

類司


 心臓をなでるみたいにやさしくされて、甘やかされてひとつになる。それってどんな気分なんだろう。それを知るのがほんの少しだけこわかった。本当は、きみの隣で眠るだけでよかったんだ。僕はいつのまにか、怪物になってしまった。幾許かの暗い闇が僕の中を渦巻いている。きっと君はやさしいから、僕のことを抱きしめて、いいよ、と口にしてくれるんだろうね。そのことを考えるだけで思わず涙がにじんで、僕は立っていることさえも難しくなってしまう。司くんは当たり前みたいにして、いとも簡単に、僕を溶かして飲み込んでしまうから。許さないでいてください。胃の中で毒となった僕が、君の身体を蝕んでしまわないように。

8月 31, 2022

あの青と青と青 / 類司


 裸の足で海を目の前にして、ただそこにある水平線と波が作られ流れる様をずっと眺めた。水中から出た時、人は喪失感を感じる時があるらしい。あのとき4人で行った海は楽しかった。今ここにいる僕は、喪失と安心の狭間で揺らいでいる。ワンダーランズ×ショータイムは僕の母へとなり得るか?僕はもう一人ではない。もう怖くなんてないのに、時折そうして心が揺らいだ。司くんが僕の手を握って、大丈夫だと唱えた時がある。波で足が海に浸かる時、そのことを思い出して少し泣きたくなった。できれば僕はもう少しだけ、君の羊水の中で眠っていたい。

あの青と青と青 / パスピエ より

8月 14, 2022

やわらかな生 / 類司


 「生」は「死」に、そのまま土へと還ります。目の前の死を、僕は興味深く見ていた。いつまでそこにいるつもりだといいながら、司くんは目の前のやわらかくてふわふわした生き物に釘付けだ。生きていて柔らかくて小さいものは、誰も彼もがかわいらしいといい、僕もまたそれをかわいらしいと思う。ただもう少しだけ、そこにあることが当たり前かのような顔をして、目の前に置かれた箱の中の死を見ておきたかった。

 僕が死んだらどこに還るのだろう。僕が死んだら、棺桶に入り、そのまま焼かれ、灰になり、骨壷の中にすっぽりと収まって、こんなに小さくなってしまった、なんて言われてしまうのだろうか。僕の棺桶の中には、何を入れてくれるのだろう。入れてくれたものが、その小さな骨壷の中に、僕と一緒に、すっぽりとおさまってしまうわけだけれど。君と同じ墓に入りたい。だけどそれは、僕が、嘘であってほしい望みなので、できれば君の、大事な一部をください。なんでもいいよ。君の大事な、こころの一部が込められたものであるならば。

 気づいたら、いつのまにか司くんは僕の近くにいて、寒気がするといいながら僕の手を引き、展示場所から外へ出ようとしていた。犬を見に行くのかい、と聞けば、お前も犬を見ろと言った。少し怒っているようだった。嫌なら見なくてもよかったのに。そう言えば、お前がずっと見ているものだから、何かあるのかと気になったとこぼす。司くんは、ずっと律儀で真面目だ。苦手なものは見なくたっていいんだよ。

 司くん、僕が死んだら君の大事なものを棺桶にいれてね。やわらかくて、やさしく輝く、君の大事なこころを。そうしたら、僕もどこか還る場所へ、君と一緒にゆける気がするから。そんなことを思っているとはつゆ知らず、司くんはまた、やわらかいものに釘付けになっていて、僕はまた、こっそりと笑ってしまうのだ。

8月 04, 2022

安清


 今起きていることがわからなくて、時間の流れが自分だけゆっくりになっている気がした。視界がぐにゃりと歪んで、 清光! という声でハッとした。不甲斐ない。反応が遅れた、いや、遅らされた。この呼びかけた目の前のこいつによって。戦場ならとっくに死んでいる。でもここは幸か不幸か戦場ではなかった。
 いやだった? と不安げな声で呼びかけられる。いや、いや? いやじゃない。いやなわけがなかった。やさしい感触が唇に残っている。安定が俺に口吸いをしたのだと数秒遅れて気がついて、ついでに自分の顔が火照っていることにも気がついた。安定とはこの前、思いを通じ合わせたばかりだった。期待をしていなかったわけじゃない、だけど俺たちは存外いつも通りだった。だからなにも変わらない気がすると油断していた。動揺しているんだと自分でもすぐに理解できた。いやじゃないと口にすると、安定はほっとしたような顔をしていた。
 俺たちはいつも一緒だった。いつも一緒なのが当たり前だったし、これからも一緒がいい、と、思っていた。ずっと、同じようでいたかった。その均衡は崩される。その選択をしたのは自分達だ。こういうとき、やっぱり人の身体は面倒だと少し思う。だけど同じくらい、このおもいが愛しかった。顔が火照るのも、やさしい感触も、胸のざわめきも、全部愛しくて、手放せない。
 真っ赤だねと遅れていうお前に、俺はうるさいと返すことしかできない。でも、それでよかった。胸の内にあるすべてが雪崩を起こしてしまうのは、かっこ悪くてかわいくなくて、そしてなにより、お前にすべてが知られるのは、いっとう悔しいことだから。

 ああもう、なんでお前なんだろう。ううん、きっと、お前じゃないと、このきもちは生まれなかったね。

2月 23, 2022