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No.12

やわらかな生 / 類司


 「生」は「死」に、そのまま土へと還ります。目の前の死を、僕は興味深く見ていた。いつまでそこにいるつもりだといいながら、司くんは目の前のやわらかくてふわふわした生き物に釘付けだ。生きていて柔らかくて小さいものは、誰も彼もがかわいらしいといい、僕もまたそれをかわいらしいと思う。ただもう少しだけ、そこにあることが当たり前かのような顔をして、目の前に置かれた箱の中の死を見ておきたかった。

 僕が死んだらどこに還るのだろう。僕が死んだら、棺桶に入り、そのまま焼かれ、灰になり、骨壷の中にすっぽりと収まって、こんなに小さくなってしまった、なんて言われてしまうのだろうか。僕の棺桶の中には、何を入れてくれるのだろう。入れてくれたものが、その小さな骨壷の中に、僕と一緒に、すっぽりとおさまってしまうわけだけれど。君と同じ墓に入りたい。だけどそれは、僕が、嘘であってほしい望みなので、できれば君の、大事な一部をください。なんでもいいよ。君の大事な、こころの一部が込められたものであるならば。

 気づいたら、いつのまにか司くんは僕の近くにいて、寒気がするといいながら僕の手を引き、展示場所から外へ出ようとしていた。犬を見に行くのかい、と聞けば、お前も犬を見ろと言った。少し怒っているようだった。嫌なら見なくてもよかったのに。そう言えば、お前がずっと見ているものだから、何かあるのかと気になったとこぼす。司くんは、ずっと律儀で真面目だ。苦手なものは見なくたっていいんだよ。

 司くん、僕が死んだら君の大事なものを棺桶にいれてね。やわらかくて、やさしく輝く、君の大事なこころを。そうしたら、僕もどこか還る場所へ、君と一緒にゆける気がするから。そんなことを思っているとはつゆ知らず、司くんはまた、やわらかいものに釘付けになっていて、僕はまた、こっそりと笑ってしまうのだ。

8月 04, 2022