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No.19, No.18, No.17, No.16, No.15, No.14, No.137件]

基緑


 オレたち、ずっとうそをついていたから。なにが本当なのか、わからなくなってしまってた。でも、彼らが繋いだボールも、姉さんが握ってくれた手のひらのあたたかさも、全部本当だったから。オレ、今ここに生きているんだって。ちゃんとそう思えたから。お前のことも、うそじゃないってはっきりとわかったよ。オレたち、ちゃんとつながっていたのに、すっかりはなれてしまっていたね。
 久しぶりに聞いた「自分」の名前もうそみたいに思えたけど、オレもおそるおそるお前の名前を呼んだ。うそじゃないって思いたかったから。きっと人の姿形をしていて、ちゃんと人のままでいるよ。そう思いたいと願って触れた手のひらはあたたかい。ああよかった、本当だ。

9月 18, 2022

あらしのよるに / 類司


 丸まって眠る首筋に、きみのあたたかな呼吸が一定の速度を保ってあたっては、こそばゆい気持ちと、少しだけ胸騒ぎがするような、嵐の前のような気持ちが湧き上がる。こっちの気もしらないで、と僕はいいたかったけれど、その気持ちをこらえて、丘の上に立ち、不穏な風を一身に受けて深呼吸する。抑え込んで抑え込んで、なにもないふりをする。本当は、君の手を引いて、嵐の中、ずぶ濡れになったままでキスをしたい。ひどい話でしょう。でもそんなことは、きっと僕が、一番嫌だから。気づいたら嵐の気配はなくなり、穏やかな風が吹いている。ほら、もう大丈夫。

9月 09, 2022

無能 / 吹雪士郎


 うつくしくいきてね。それがどういうことなのか皆目見当もつかないものだったけれど、うつくしくいきて、とずっと言われていたから、ボクはずっとそうあろうとしていたし、鏡の前で話すお前も、ずっとボクにいいつづけていたよね。ボクは、今もうつくしいですか?凍てつくような寒い冬、止まない吹雪、ボクの中の永遠。全部、ずっと焼けるように痛かった。北ヶ峰のあの場所で、立ち止まったまま、時間だけが過ぎていく。鏡の中のお前は、いつかボクを、跡形もなく殺してしまうのかもしれない。でもボクはそれが許せなかったから。うつくしくいきる。お前の首を絞めることもできないまま、ただ痛みに耐えたまま、そうして夢の中、ボクは。

無能 / österreich より
イナズマイレブン 第45話 を観て

9月 08, 2022

遠き星より / 基山ヒロト


 ぼくたちは宇宙人でした。ぼくらは陽のもとであるがままの姿へと形を変え、今を生きることになりました。止まった時間は軋みながら動き出した。あるがままの、その姿の時間を。
 忘れたいことも、忘れられないことも、忘れたくないこともたくさんあるよ。だけどオレたちは星の子らとして生きたこと、きっと絶対に、忘れることはない。たくさんの瓦礫、あのぼんやりとした石の光、あたたかな光、やさしいこころ。
 ぼくは。ぼくは、私は、オレたちは、あなたを愛しています。遠き星エイリアより、愛を込めて。

9月 08, 2022

類司


 類の歌声が好きだ。セカイで歌をうたうとき、耳にやわらかな声が入り込んできては、周りを楽しませたいという感情が滲むのだ。その時は類自体もすごく楽しそうだったし、類がこちらを見て笑う時、楽しくてしょうがないといったような顔をしているので、オレも思わず楽しくて笑ってしまう。それはきっと、瞬きの中のような、夢の時間。
 ネバーランドは永遠じゃない。そうやって、まるでわかっているようなふりをする。あと少しだけ微睡にゆだねていたいこと、類は許してくれるだろうか。

9月 01, 2022

類司


 心臓をなでるみたいにやさしくされて、甘やかされてひとつになる。それってどんな気分なんだろう。それを知るのがほんの少しだけこわかった。本当は、きみの隣で眠るだけでよかったんだ。僕はいつのまにか、怪物になってしまった。幾許かの暗い闇が僕の中を渦巻いている。きっと君はやさしいから、僕のことを抱きしめて、いいよ、と口にしてくれるんだろうね。そのことを考えるだけで思わず涙がにじんで、僕は立っていることさえも難しくなってしまう。司くんは当たり前みたいにして、いとも簡単に、僕を溶かして飲み込んでしまうから。許さないでいてください。胃の中で毒となった僕が、君の身体を蝕んでしまわないように。

8月 31, 2022

あの青と青と青 / 類司


 裸の足で海を目の前にして、ただそこにある水平線と波が作られ流れる様をずっと眺めた。水中から出た時、人は喪失感を感じる時があるらしい。あのとき4人で行った海は楽しかった。今ここにいる僕は、喪失と安心の狭間で揺らいでいる。ワンダーランズ×ショータイムは僕の母へとなり得るか?僕はもう一人ではない。もう怖くなんてないのに、時折そうして心が揺らいだ。司くんが僕の手を握って、大丈夫だと唱えた時がある。波で足が海に浸かる時、そのことを思い出して少し泣きたくなった。できれば僕はもう少しだけ、君の羊水の中で眠っていたい。

あの青と青と青 / パスピエ より

8月 14, 2022