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No.21, No.20, No.19, No.18, No.17, No.16, No.157件]

グルハル


 いつでも、分かったようなふりをしている。相手は子供だから。ぼくに勝っても変わらずに純粋な眼差しを向け、ぼくの名前を呼んでいるのをみて、合点がいったように受け取って当たり障りのない態度をした。ぼくは一体、この子のことを。そう考えた時にハッとして頭を振り切ってなにもなかったように接した。雪山はいつ奈落の顔を見せるかわからない。彼と接している時も同じだと思った。分かったようなふりだけで、いつまで持ち堪えられるのだろう。いつかの事故みたいに、再起不能なまでにまた突き落とされてしまうかもしれない。足を踏み外すかもわからない。そういう緊張感が自分の中に存在している。ぼくの名前を呼ばないでくれ。嘘、本当は、もっとたくさん、呼んでほしい。ぼくは、この子のことが。

2月 03, 2023

きみのことが好きです / 類司

※死を示唆する描写

 誰もいない葬式場で、きみのことをそっと覗く。石みたいに硬くて冷たくて、もう熱をもつことのない身体。僕がきみの骨壷を持つことはない。僕はきみのなにものにもなれなかったから。僕はきみのずいぶん近くにいたけれど、それ以上でも、それ以下でもなかったんだ。ああ、僕はやっぱり、きみと最後を約束したかったのかな?最後の約束をしても、死んだきみの重さを知ることはないのだけれど。僕といる時間は楽しかったですか?僕はなにものにもなれなかったけれど、僕ときみの時間は、なにかであってほしいって、そう思うくらいならいいのかな。僕の瞳からとめどなく溢れるしずく、ふと人の六十パーセントが水でできていることを思い出す。これはきみへの花束で、永遠に枯れることのない、僕からきみへの光です。

9月 18, 2022

基緑


 オレたち、ずっとうそをついていたから。なにが本当なのか、わからなくなってしまってた。でも、彼らが繋いだボールも、姉さんが握ってくれた手のひらのあたたかさも、全部本当だったから。オレ、今ここに生きているんだって。ちゃんとそう思えたから。お前のことも、うそじゃないってはっきりとわかったよ。オレたち、ちゃんとつながっていたのに、すっかりはなれてしまっていたね。
 久しぶりに聞いた「自分」の名前もうそみたいに思えたけど、オレもおそるおそるお前の名前を呼んだ。うそじゃないって思いたかったから。きっと人の姿形をしていて、ちゃんと人のままでいるよ。そう思いたいと願って触れた手のひらはあたたかい。ああよかった、本当だ。

9月 18, 2022

あらしのよるに / 類司


 丸まって眠る首筋に、きみのあたたかな呼吸が一定の速度を保ってあたっては、こそばゆい気持ちと、少しだけ胸騒ぎがするような、嵐の前のような気持ちが湧き上がる。こっちの気もしらないで、と僕はいいたかったけれど、その気持ちをこらえて、丘の上に立ち、不穏な風を一身に受けて深呼吸する。抑え込んで抑え込んで、なにもないふりをする。本当は、君の手を引いて、嵐の中、ずぶ濡れになったままでキスをしたい。ひどい話でしょう。でもそんなことは、きっと僕が、一番嫌だから。気づいたら嵐の気配はなくなり、穏やかな風が吹いている。ほら、もう大丈夫。

9月 09, 2022

無能 / 吹雪士郎


 うつくしくいきてね。それがどういうことなのか皆目見当もつかないものだったけれど、うつくしくいきて、とずっと言われていたから、ボクはずっとそうあろうとしていたし、鏡の前で話すお前も、ずっとボクにいいつづけていたよね。ボクは、今もうつくしいですか?凍てつくような寒い冬、止まない吹雪、ボクの中の永遠。全部、ずっと焼けるように痛かった。北ヶ峰のあの場所で、立ち止まったまま、時間だけが過ぎていく。鏡の中のお前は、いつかボクを、跡形もなく殺してしまうのかもしれない。でもボクはそれが許せなかったから。うつくしくいきる。お前の首を絞めることもできないまま、ただ痛みに耐えたまま、そうして夢の中、ボクは。

無能 / österreich より
イナズマイレブン 第45話 を観て

9月 08, 2022

遠き星より / 基山ヒロト


 ぼくたちは宇宙人でした。ぼくらは陽のもとであるがままの姿へと形を変え、今を生きることになりました。止まった時間は軋みながら動き出した。あるがままの、その姿の時間を。
 忘れたいことも、忘れられないことも、忘れたくないこともたくさんあるよ。だけどオレたちは星の子らとして生きたこと、きっと絶対に、忘れることはない。たくさんの瓦礫、あのぼんやりとした石の光、あたたかな光、やさしいこころ。
 ぼくは。ぼくは、私は、オレたちは、あなたを愛しています。遠き星エイリアより、愛を込めて。

9月 08, 2022

類司


 類の歌声が好きだ。セカイで歌をうたうとき、耳にやわらかな声が入り込んできては、周りを楽しませたいという感情が滲むのだ。その時は類自体もすごく楽しそうだったし、類がこちらを見て笑う時、楽しくてしょうがないといったような顔をしているので、オレも思わず楽しくて笑ってしまう。それはきっと、瞬きの中のような、夢の時間。
 ネバーランドは永遠じゃない。そうやって、まるでわかっているようなふりをする。あと少しだけ微睡にゆだねていたいこと、類は許してくれるだろうか。

9月 01, 2022