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No.10

類司


 類は馬鹿だ。大馬鹿者だ。オレのことを少しもわかっていない、大馬鹿者だ、と思う。お前のこと、どうして嫌いにならなきゃいけない? つくづく難しいやつだ。でも、それだけ慎重なのだとも思う。そこには同意してやろう。オレも、お前が嫌がることはしたくない。

 言うべきことこそ口にできないなんて、案外ままならないものだ。撤回しよう。お前だけじゃなく、オレもつくづく大馬鹿者なんだ。

 類は迷子みたいな顔でこちらの様子を窺っていた。類はずっと優しかった。今だって、触れた手つきは変わらず優しいままだ。ひどいものか、こんな、こんな。

 なあ類、オレは、ずっとお前に触れてもらいたかったよ。

2月 14, 2022