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No.23

こどもの国 / 主♂N


 ほろり、と涙が流れた。どうしたのN、と聞けば、なにがだいと返ってきた。自分が泣いていることに気づいていないみたいだったので、泣いてるよとなるべく努めてやさしく言った。驚いた顔をしたNが顔に手をやり、自分の手がうっすらと濡れることでようやく気づいたのかちいさく本当だ、と漏らす。幸いにも周りに人はいなかったので、とめどなく溢れる涙を眺めていたぼくは無理しなくていいよ、と言った。声をあげて泣くことはなくただぽろぽろと溢れる涙をNが服の袖で拭う。あくまで論理的に、Nが今考えていたことをぽつぽつと話しはじめたので、ぼくはひとつひとつ話をきいた。Nは再会した自分の親について、ずっと考えているようだった。世界は白も黒もなく灰色に混じり合っているとわかって、こんな風に悩むことは人間らしいのだとそう言われて、時には苦しいけれど、こうしていることが悪いことだなんて思わないとNは言った。キミたちもいるしね、と笑うNをみて、ぼくは胸が痛くなる。自分で気づかず、涙を流していたのに?もしぼくがNと同じ立場だったら、どんな風に思うんだろう。Nはやさしいからそうあれるだけで、きっとぼくはNみたいになれないだろうな。でも今ここにいるぼくは、Nに笑っていてほしいと思ったから。かける言葉がない代わりにNのことを抱きしめたらNは驚いたみたいだけど、まもなくしてトモダチみたいだと的外れなことを言って笑っていた。ポケモンみたいでもなんでもいい。Nが笑ってくれるなら、なんでもいいよ。心配してくれてアリガトウとぼくのことを抱きしめ返してくれた部分がほんのりあたたかい。子供みたいに抱き合うぼくらに、やさしい風が吹いている。

3月 20, 2023