ユーエンミー / 主♂N
横たえたNの身体をじいと眺める。Nはぼくの目を見つめて、はっきりと、大丈夫だよ、と言った。ぼくがNのことを、いわゆるそういう感情で見始めたのはいつだっただろう。そこに境界線なんてなくて、曖昧にぼやかされながら、ゆっくりと変化していて、気づいたらぼくはこんなところに立っていた。いや、立ち尽くしている、のかもしれない。震える手を動かして、Nの心臓の部分に手をあててみたら、とくとくと、静かに振動が伝わってきた。肌にふれたら、もっと大きな振動が伝わってくるのだろうか。ずっと考えてきた。ぼくがこれからキスをして、直にふれるときに大切ななにかを壊してしまうんじゃないかって。まるで心臓を直に掴まされていて、あっという間につぶしてしまうような、そういう緊張感をずっと抱いている。どうしよう、N、ぼく。ぼくはNがNでなくなってしまうのが嫌だった。遠くでNがぼくを呼ぶ声が聞こえる気がする。ぼくたちずっと、まどろみの中にいたのに、きっとキスをしたら、目が覚めてしまうね。それに気がつくと、ごめんね、と呟いて、ただきみのことを抱きしめた。意気地がないのかもしれない。それでもよかった。もう少しだけ、きみと一緒に、夢の中で。
ユーエンミー / 理芽 より
4月 17, 2023