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No.3

敬良


 自分勝手だ と思う。

 俺はあいつを引き止められるような言葉を知らなかった。何よりわがままだって思ったんだ。結局、近くにいて欲しいとか、そういうことをいうのは、あいつにとって2個下のわがままでしかないんだと思う。だから何も言えない。余計なことを考えるのはやめればいいのに、伊勢崎のあの顔を目の前にすると、突然足がすくんで何も言えなくなった。らしくないといえばらしくなかった。けれど俺は、多分あいつのことを知りすぎてて、知りすぎてるから、わからないことに何か踏み入ることを躊躇する、のかもしれない。本当はもっとわかってやりたかった。追いつこうとしても追いつけないし、追いついても、隣に立つこともなく、きっと知らぬ間にあいつを追い越している。俺は隣に立てない。決まりきってることなんだって今ならわかるよ。なあ、そうだよな、伊勢崎。

11月 08, 2020