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No.35

待合室 / 原藤


 原田さん、と呼びかけてもめずらしく起きる気配がなく、せっかく部屋まできたのに寝ているなんてつまらないなとか、部屋に戻って読書でもして、しばらくしたら出直そうかなとか、いろいろ考えたけど、結局、じいとその寝ている姿を見ている。静かな部屋だ。寝息だって聞こえるかどうかわからないくらいで、勝手に原田さんの本質はここにあるんじゃないかと思い、かき消すようにすぐさま決めつけるのをやめた。一人でいるとき、原田さんはずっとこんな調子なんだろうか。僕に比べたらよく周りに人がいる人だと思う(人と関わるのが随分と上手だ)そう思うから、なにもないみたいだとこの部屋の静けさに、足の底が浮くような心地がする。いつだったか、僕が寝ている姿を原田さんが見ていたことがある。起きたときびっくりして、なにしてるんですか、と怯えたような声をあげて、原田さんは別に、といいながらどこか安堵するような様子だった。対して僕は、原田さんが寝ていても死んでいるとは思わないけれど。でもまあ、せめて悪い夢を見ないように、もうしばらくここにいてあげますよ、なんて。

10月 22, 2025