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No.41

深昏睡 / 原藤


 夢なんか見ないから、今起きてることが多分夢みたいなもんだって。自分で選んだことでも実感がないから、握る手のひらの感触もかじかんでなにもわからなかった。まったくあなたが誘ったのに上の空ですか。声が呼び水になって周りの音が聞こえるようになる、自分で用意したなんでもない部屋の縁側の、見える木の枝に鳥が止まってさえずりをする。シミュレートの中でまた実感のなさを積み上げて、悪い、とひとこと言う。

 やわらかな風が頬をなでるのが、しょうがないですねと言いながら隣にいて、その上で好きですよと投擲される言葉自体が、信用されきって寄りかかり、沈んでいくその身体が。

 夢みたいだな。空に溶ける声をすくって、僕らは夢なんかみないでしょと言葉を落とす。夢にしないでくださいよ。そうやって容赦なく心臓をなで上げる。手のひらが熱を帯びてきて、硬い指先の感触がする。隙間を縫って光が差した。そうしてようやく、まぶたをあげる。
2月 16, 2026