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No.25, No.24, No.23, No.22, No.21, No.20, No.197件]

疾走


 きみのやわらかな態度が、笑い方が、こころが、手をとって向こう側へ。俺が握り返さなくたって何度でも話しかけてくれたよね。間にある境界線を許してくれなかった。あのとき奪わさせないといっていたけど、俺に対してもそう思うのかな。本当は、ずっと友達になりたかった。今はあっという間にきみの中にいて、きみの手を握り返そうと思えるし、きみから目を逸らすことだってしない。きみが最初に言ったんだよ、目をそらさないでって。そうでしょ?
 重い足取りは随分軽くなっていて、遠くへいるきみが随分とすぐ近くにいる気がしてならなかった。きみが後ろを向いても離さない自信があった。風みたいに駆け抜けていく。そこにいてね、今からそっちに行くからさ。

3月 20, 2025

やがて消える


 罰してほしいんだと思う。そうやって自分の至らなさを追求されて、傷ついたら満足できるのかといわれれば多分そうではない。だけどこうやってなにもないみたいに自分だけがここにいて彼女をどうにもできなかった事実が重くのしかかっては、いても立ってもいられなくなって早く俺を殺してくれとそういう気持ちになった。かと言って、そうやって自分のことを傷つけることが彼女との約束を破ることになるのも明白だった。ただひたすら罰して、俺を生き地獄の中に放り込んでほしい。永遠にそうしてくれれば、ここに自分がいる意味が多少なり生まれる気がした。世界のすみっこの方で、誰に気づかれることもなくなにもない場所で一人でずっと火に炙られていたい。でも、火を点けるのがきみではかわいそうだから。俺のしらないところで、俺をしらないところでしあわせでいてください。

3月 12, 2025

球体


 きみが声をひそめて秘密を打ち明けるみたいに耳元ではなすから、そのたびに内側から熱がこもって身体に力が入ってしまう。流されてしまいそうなんだ。意識も何もかも全部が。やわく角の取れたやさしさとか、ほんのわずか意地の悪いいたずら心とか。きみからのすきを一心に受けるというのはこういうことなんだと、地面に足をつけようとしていてもあっという間に耐えられなくなってしまいながら遠くの方で考える。他の誰かもこんな風にきみと対峙していたかもしれない。きっとしあわせなはずだ。きみは人を祝うことも祝われることも上手だから。きみの内側のやわらかなカーテンの向こう側に行きたかった。それを越えてまんなかまできてしまったけれど。ごめんね、しばらくここを出られないみたいだ。

3月 9, 2025

となりの

※リクヒロ+カザ

 あいつらのことはあいつら自身で考えることで、俺が口出してなにか言うことじゃない。いや、正直口出したくてしょうがないけど。ヒロトがビルドダイバーズのリクに対してなにもしないのがもやもやして、そんなに気になるなら一回話したらいいだろと頭ごなしに言いそうになる。でもそれが悪手なのはわかってたし、ヒロトだって別にリクと話をしていないわけじゃない。互いに避けているわけでもなく、はたからみても普通に友達に見えている。ただ、そんな簡単な話じゃないってだけだ。こっそりユッキーから話を聞いたところによると、どうやらリクの方がヒロトと微妙な距離を置いているらしかった。ヒロトはといえば、気を抜いていれば気づかないがおそらくものすごく慎重に物事を運ぼうとしているというのがなんとなくわかっていた。普段のGBNでの攻略スタイルと変わらないのがあいつらしいといえばそうだけど、正直みていてやきもきするのが本音だ。でもヒロトがまた後悔することになるのは俺も嫌だったし、かといって、俺たちに特になにも言わないのもなんとなく嫌だった。困ってんなら少しくらい相談してくれてもいいんじゃねーの。俺らにそんなに言いづらいか?そうやって何度も思ったけど、結局、そういうことじゃねーのかもなと話に聞いただけのELダイバーとヒロトのことを思い出していた。
 お前が口数少ないのはわかってるよ。でもやっぱり気になるだろ。俺達バラバラだったけど一緒にやってきただろ。だから少しくらい話きいてやらなくもないんだよ。分かれよ。俺は散らかった言葉を全部飲み込んできた。だから今日ファミレスに呼び出され、二人でコップに入ったコーラを挟んで向かい合ってるのが少し嬉しかった。「カザミ」おう。「今日は相談したいことがあって」おう。「大したことじゃないんだけど」そうやってようやくヒロトは思っていた通りのことを話し始めた。そう、それでいいんだよ。話くらい聞いてやるから。わかるだろうけど、パルもメイも聞いてくれるよ。なあ、もっと話せよな、お前のこと。

2月 26, 2025

春の惑星


 きみのすきは大きすぎて、それを受けると大きな布に包まれてるみたいだと思う。部屋のカーテン、お気に入りのブランケット、そういった類と一緒にきみのすきが並んでいる。春風みたいにやってきて、あっという間に全身を包んだら内側の温度がゆるやかに上がっていく。うたたねだってかんたんにできるよ。俺のことをすきだというのが伝わってくるたび、俺はゆだねるようにまぶたを閉じる。もらってばかりだからなにかしたくて、でも俺がきみになにかをしたら加減が効かずに離れてしまうんじゃないかって。いつもそう。なにか間違って、俺のところに不時着しているのかもしれないとふとした瞬間に思って、いつの間にかひどい嵐がやってくる。泣いているのかもしれない。きみにだけはうまくいかない。ぬるい風がごうごうと吹いていて、きみの手の感触だけがたよりになる。過ぎ去ったらきみのことを抱きしめたいと思うのに、晴れ間が見えたらすぐさまきみに名前を呼ばれて、また返せないまま立ち尽くしてしまう。きみが目を細めて笑うのがすきなんだ。一言いえばいいのにね。また俺だけが、まどろみの中だ。

2月 13, 2025