text_top

No.14

トワイライト見せてよ


 最近、ヒロトとリアルで会うことが増えた。ほとんどとりとめのない理由で会っていて、用事が済んだらじゃあご飯でも、ぐらいの、本当になんでもない時間を共有する。東京まできてもらうこともあれば、俺が神奈川の方まで行くこともあった。そんなに近くもないのに赤レンガの建物とエールストライクが見慣れた景色になりつつあるのがなんだかおかしくて、それをヒロトに言ったら俺だってユニコーンのこと見慣れちゃったよと笑っていた。
 いろいろ話したいことがあるんだとはっきり言われてから、俺たちは互いのことをぽつぽつと話すようになっていた。今思えば、そのためになにか会う口実を作ってくれているのかもしれなかった。GBNじゃなくてリアルで会うのは、多分、ヒロトなりの「逃げないで」というメッセージなんだと思う。俺がそっちへ行こうとしない理由もわかってて、きみがいつもこちら側へ歩み寄ってきてくれる。そのことを理解するたびになんだか居心地が悪くて、ごめんと言いそうになる。なるべく普段通りに接してはいても、ずっとあの話が引っかかって自分から深く歩み寄る気になれなかった。
 QRコードから読み込んで友達登録をした、「クガ・ヒロト」のトーク画面をみた。一枚扉を開けてしまったあとのような、ゲームで後戻りのできないオートセーブが実行された時を思い出し、一瞬だけ手先の感覚が曖昧になる。明確にまた一つ許されたんだとわかって、少しだけきみのことがこわくなる。簡単に許さないでほしいって思うのは、おかしいこと?
 トーク画面に簡潔な「よろしく」の文字が送られてきて、「ヒロト」じゃなくて「クガ・ヒロト」から送られてきたと思うと妙に緊張した。俺だって「ミカミ・リク」の名前で登録してるけど。ダイバールックが装備なら、これはほとんど丸腰だった。返信できずにいたら、いいよあとで、とヒロトが言う。どきりとして、ぎこちない動きでスマホをしまう。嫌だった?って言うヒロトになんのことかわからなくて聞き返したら、連絡先交換するの、と言ったから、今更そんなこという?とかなんとか、頭の中を言葉が速いスピードで飛び交っていく。だけどヒロトのまつ毛が震えたのを見たら、それも静かに消えていった。多分きみも冷たい手をしているってわかったから。

1月 16, 2025