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救心


 目を開けるとすぐ目の前にリクがいて、よかったあ、と言う。急に倒れたんだよ、本当によかった、としきりに言っては俺の手を包んでいた。触れている手のひらがふるえていたから、リクもこわいことがあるんだと人ごとみたいに見つめる。俺の意識がなくなってしまったら、そうやって手をふるわせながら冷たいからっぽの身体を包んでくれるのだろうか?リクをはかりたいわけではないけれど、それほどまで俺を気にかけてくれるのが不思議だった。反対の手をリクの手の上にかぶせてみたらこっちを見るから、リクのほうが大丈夫じゃないと言ったら、心配したんだよとこぼした。本当に傷ついてるんだ。なんて、さすがに言わないけど。

9月 28, 2025

楽園


 俺から見たきみが、数いるうちの一人だとか、特段特別ではないとか、つまりただのオンライン上の友達で、フレンド一覧にいるアカウントの一つにすぎないと考えているとか(もしくは、そこにさえ数えられているか怪しい、とか)そういう風に切り離されている。そんなわけないじゃん。きみが俺を複雑さを持って特別にしていることを知っている。きみはいつも、俺を遠くのなにかを眺めるみたいに見つめている。それを察するたび、なにもわかってない、と思う。

 きみの目の中に光がうつりこんでいる。その中には一体何が入っているのかと考えて、想像しただけでそうじゃないといいたくなる。否定してごめんね。祈りを手折る、虚像をかき消した、俺のことを見て、きみの手を引いてしまって、いやでも近くにいるって教えてあげる。

9月 16, 2025

沈黙


通り道の施設の庭に
咲いている
すずらんが揺れている
きみの声が
鼓膜をふるわせるのを思い出した
もしたとえば
きみがすずらんだったとして、
きみが俺を毒で殺してしまうのか
きみの手がまた自分の首をしめてしまうなら
否定してあげたかった
誰かのための手だって

すんとした空気が通り抜けて、
小さな痛みがきみのよう
なにも知らないみたいに
通り過ぎる
ぜんぶ
そうしたら、きっと
きみも自由でいられるね

5月 28, 2025

a while


 無防備なきみの姿を見ては、わずか長いまつげの整った形を視線でなぞる。少し目を離した隙に寝てしまったらしい。きみの寝顔を見るのははじめてだった。規則的な呼吸音に耳をすませる。すう、すー、と小さな音が聞こえてきて、ここにきみがいると改めて認識する。信用の音だ。許されている気がして、心地いいような気恥ずかしいような感覚で内側をなでられる。どんな夢を見ているの。俺の前でも、悪い夢を見ないでいられる?浅瀬でひとりきみが立ち尽くしていたとする。できればきみの手をとるのが俺であればいいのにって、俺も図々しくなったよね。みじろぎをしたきみがまぶたを起こして、ずっと眺めていた俺の視線と重なった。寝ちゃったって居心地悪そうに言うから、いいよ、と言う。きみが安全でいられるなら、なんでもいいよ。

5月 17, 2025

ブルーフレンド


 フレンドになってくれる?そう言ったきみの照れくさそうで少しだけ遠慮がちな姿がまだ記憶に新しい。俺は本当にうれしかったんだよ。一歩を踏み出す素振りだけできみは深く入り込んでこないと思っていたし、俺自身も自然に振る舞おうとして、きみと目を合わせるとその青さに飲み込まれてしまう。奥の奥のきみに少し近づけた気がした。そんなもの、実際はないのかもしれないけど。噛み合わなくて、途端に話ができなくなると風穴が空いたみたいに冷たい風が通り抜けていった。気づいたらきみのための場所ができている。勝手に遠ざけていたのは俺の方なのにね。いつか、もっとうまく話せるときがくるのかな。この前はごめんと言うきみの真っ直ぐさに手を伸ばした。青の中、きみが嬉しそうに笑っている。

5月 11, 2025