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No.26

あふれる


 口を開く。誰もいないところで俺の声がひびいて、演出上の風の音でかき消されていった。俺のデータも消えてくれただろうか。彼女が見ていると思ったら、少しだけこそばゆい気もするけれど。
 後悔したくないのに、きみとの距離が定まることに足が震える。また自分のせいで失ってしまったら?そう思うと立ち直れる気がしなかった。最近リクが俺と向き合ってくれているような気がして、ようやくつながれたと息をつくことができたのに。俺の中にまだ安心できないものがうごめいていると思うとやりきれない。もう十分だと思うのに、どうしてこんなに惹かれているのかわからなかった。近づいたのに離れてしまう。全部俺のせいで。
 俺の手を握って。いや、きみの手を握ってもいい?どうしてこころをひとつにしたいんだろう。きみの手と重なったら、熱をもって一つになれる?きみになりたいわけじゃない。だけど、俺のことを知ってほしかった。すきになってほしかった。0と1の世界のすみで、またひとりきりで泣いている。

3月 26, 2025