潮騒
吹いた風に潮気が混じる。ひらけた海の向こう側、なにも見えやしないのに。きみに昨日なんて言ったっけ。思い出せない。突き放すようなひどいことを言って、気がついたら現実世界に戻っていた。流された空白が責め立てる。足元の草花が風で擦れて小さな音を立てて消える。なんでかずっと、きみのことを考えてしまう。なにも知らないくせに。本当は、なにも知ろうとしていないのは俺の方だった。そういえば、きみの住む街にも海はあるのだろうか。きみのことをよく知らない。聞いたら教えてくれたのかもしれない。波の音がきこえる。きみにもこの音が聴こえる?そうやって聞けたらよかった。早く全部飲み込んでくれ。息をきみにあげてしまいたい。そうしたら、この波もきみのものにできるから。
4月 24, 2025