残されたもので話すよ
ざあざあ雨が振り続けている。久しぶりに会えたから一緒にどこかへ行きたかったような気持ちと、部屋の中で向かい合ってプラモを組み立てているのが「らしい」と思う気持ちがごちゃまぜで、でもなによりヒロトが俺の家にいるのが変な感じがする。ユッキーを家にあげるのはなんてことないのに、今日は地面にぴったりと足がついていない。自分の家なのにそうじゃないみたいで、階段を滑り落ちないか少しだけ不安だった。
自分が考えたことをかき消して目の前の作業に集中しようとするけどうまく行かない。ふと顔を上げたらコップが空になっているのを見つけたから、飲み物取ってくるねと言って席を立つ。空になったコップを無意味に洗って、ついでに自分の手も念入りに洗った。俺ばっかりが変になっている気がして恥ずかしくて、それを落とそうとするみたいに冷たい水に自分の手をさらす。今まで何度もヒロトだって俺と同じだってわかってきたはずだったのに、いつも自分ばかりが緊張している気がした。俺ばっかり変な理由はわかっているんだけれど。ヒロトが心を明け渡してくれるたび、自分の目の前で火花が散って消えていった。もう見えなくなればいい。蛇口を締めれば、近くの窓に水を打ち付ける音がする。俺にもそうしてくれたらいいのに。多分きみの前でも、普通でいられるから。
5月 3, 2025