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No.5

オーバーレイ


 少しずつ、カーテンを開けていくようなことをしていた。先が全く見えないほどに幾重にも閉ざされたそれを、刺激しすぎないように、慎重に。時折名前を呼んで、どうしたの、と返ってくる声に耳を傾ける。リクの声は相変わらずの調子で、なにかを隠している素振りさえ見せない。きみは隠すのが上手なようだったから、ほんのわずかに落とされた少しの違和感を、星屑を集めるみたいに拾っていった。空にかざすときれいに光るのが、きみの一部だってすぐにわかる。少しうらやましくなって、思わず目を細めてしまう。ずっと安心していいって言えなかった。すぐ近くの暗がりに、また足を踏み外してしまうのがこわかったから。でも、そろそろ言ってもいいんじゃないかって思ってるよ。
 電子を通さない身体で最後の層を開いて、俺と同じ、あまり変わらないきみの姿を見た。ヒロトの目は青いんだね。そう言ったきみの少しだけぎこちない笑みがこぼれ落ちる。重なった眼差しに拾い上げた光がうつって、また少しほんとうのきみを知る。やっとこっちを見てくれたね。

11月 13, 2024