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No.8

シンクロできない


 きみのことを理解したいけれど、絶対に、理解できるはずのない部分が存在していて、その部分を埋めるみたいに自分の中にある引き出しを全部あけて、思いつく限りのかなしみを混ぜていく。流れ込んでくるのは俺の錯覚でしかないんだけど、ヒロトのなにか言いたそうな顔を忘れたわけではなかったから。こんなやり方できみのこと、わかるはずないのにね。
 きみの手を俺の首元に添えたとする。形を確かめるみたいに喉仏をなぞったら、きっとほんのわずかに身じろぎしたくなる。絞めてもいいよって言ったらきみはどんな顔をするんだろう。きみの言葉を踏みにじるようなことを考える。わからないままきみのことを抱きしめて、埋まらないからきみの形になじめない。中身を取り出して入れ替えても、俺はきみの代わりになれないし、キスをしたって溶け合わない。謝らないでください。きみの言葉を反芻する。
 きみの痛みを注がれたら、きみにもっと近づける?掬えた星を抱きしめる。ぽつぽつと話すきみの、伏せられたまぶたを見る。結局、曖昧に笑うことしかできなかった。

12月 03, 2024