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No.9

トロイメライ


 抱きしめてよ。そう言えばおそるおそる俺の背中に手をまわすから、寄せるみたいにわずかばかりの力を込めた。頑なに正面から触れないきみに、少しだけさみしいと思ってる。見えない白線に息がつまって、はきだすことさえおぼつかない。
 きみの代わりに正面から、ぎこちない動きで抱きしめる。こんなのきみだけだよ。少なくとも、今は。一緒じゃなくても生きていけるのを知っていて、あっけなさに抗うのに必死になる。俺のすきがきみをすり抜けてるんじゃないかって、確かめるみたいに身体を合わせてみる。ひび割れた硝子できみが傷つくのかもしれなかった。だけど大丈夫っていいたかったから。俺はリクの大好きに入らない?なんて言ったら、ずるいって言うのかな。これはきみのやさしさで、俺はひどいやつだから。十万ルクスの容赦のなさできみに灼かれてしまいたい。やわく触れるきみの手がもどかしい。諦めないで踏み込んでよ。
 言いたいことを飲み込んでしまう。しばらくこうしていて。それだけ言って、きみの肩に顔をうずめる。うん、という声が静かな部屋に落ちて消えた。

12月 11, 2024