No.29, No.28, No.27, No.26, No.25, No.24, No.23[7件]
ボクのからだが死んでしまって、ボクのからだはうまれかわった。電子の世界で構築されたボクのからだが、キミと並ぶことは当然なく、それでもボクは「光彩斗」で、ボクは「ロックマン」だった。熱斗くんに話していないボクのひみつが、時折データの欠陥のごとく思考をよぎっては、隙間風が入るようなそんな気分になる。「さみしい」のかもしれない。口から出そうになることは一度もなかったけれど、一人のとき、時折そんなことを考える。ボクがこうしてうまれかわって、大事な時間を一緒に過ごしているだけで「うれしい」、それなのに、欲張りな自分が少しだけ顔を見せて、同じように隣に立ちたかったとささやいている。ボクが「光彩斗」として、ありのままのすがたで。キミと並んで過ごす時間は、いったいどんな景色が見えるんだろうね。
熱斗くん、朝だよ、遅刻しちゃうよ。そう呼びかけると、眠たげな熱斗くんがおはよう、ロックマンと言った。それでよかった。ほら、いつも通りの一日がはじまる。
nowhere / [.que] より
5月 14, 2023
子供のこころの成長は存外早いものだ。ハルトが固い表情で自分の手を掴んできたり、背後から抱きしめるようになってきた。挙句の果てにはぼくはグルーシャさんのことが好きですと言ってのけた。ぼくは彼くらいの年の頃、これくらいマセたようなことを言っていただろうか?スノーボードに夢中で、それどころではなかったかもしれない。とにかく、事態を納めるのが急務であることだけはわかっていた。ハルトの好きがまっすぐに届くたびに痛みを感じるけれど、ぼくはハルトを守ってやりたかった。慈愛なのか、それとも。そんなこと考えなくたって答えは出ている。ぼくは大人として、きちんと分別がついていることを演じなければいけなかった。ハルトが思っているほど、世の中はやさしくない。ぼくはハルトの必死な手を握り返さず、抱きしめられた腕をやさしくほどいた。すべての行動が、ハルトも、ぼくの心さえもナイフで傷つけられていくようだった。血だらけのぼくたちに、ここは寒くて痛くて、たまらないね。せめてぼくの正しい部分が、彼の手を取り、あたたかな場所へと導いてあげられるように。傷口に冷たさがしみる。こんな思いをするのは、ぼくだけで良いんだよ。
4月 17, 2023
横たえたNの身体をじいと眺める。Nはぼくの目を見つめて、はっきりと、大丈夫だよ、と言った。ぼくがNのことを、いわゆるそういう感情で見始めたのはいつだっただろう。そこに境界線なんてなくて、曖昧にぼやかされながら、ゆっくりと変化していて、気づいたらぼくはこんなところに立っていた。いや、立ち尽くしている、のかもしれない。震える手を動かして、Nの心臓の部分に手をあててみたら、とくとくと、静かに振動が伝わってきた。肌にふれたら、もっと大きな振動が伝わってくるのだろうか。ずっと考えてきた。ぼくがこれからキスをして、直にふれるときに大切ななにかを壊してしまうんじゃないかって。まるで心臓を直に掴まされていて、あっという間につぶしてしまうような、そういう緊張感をずっと抱いている。どうしよう、N、ぼく。ぼくはNがNでなくなってしまうのが嫌だった。遠くでNがぼくを呼ぶ声が聞こえる気がする。ぼくたちずっと、まどろみの中にいたのに、きっとキスをしたら、目が覚めてしまうね。それに気がつくと、ごめんね、と呟いて、ただきみのことを抱きしめた。意気地がないのかもしれない。それでもよかった。もう少しだけ、きみと一緒に、夢の中で。
ユーエンミー / 理芽 より
4月 17, 2023
ある花が木に咲いた頃を、出会いや別れの時期と呼ぶらしい。シキジカがはるのすがたをしているのをみたとき、ぼくはその話を思い出して、あのときのサヨナラが脳裏をよぎる。サヨナラ、と次に言う時はいつだろう。花が咲いて緑がたくさん芽吹き、やわらかな風が吹く、ぼくらでいうところの春の時期、ぼくらはお別れをして、いつかまた出会えることを願って守れるかもわからない約束をするのかな。いつまでも一緒なんじゃないかって、勘違いをしてしまいそうになる。ぼくらに限ってそんなこと、あるわけないのにね。ねえN、もしサヨナラをして、これからずっと会えなくても、笑っていてね。ぼくは自分で思っているよりずっとおだやかだった。なにもかもが変わってしまっても、きみのやさしさだけは変わらないってわかっていたから。花びらの乗った風につつまれて、きみの面影を思う。離れた場所できみのことを思い出したら、ぼくもきっと、やさしくなれるね。
エイプリル / mol-74 より
4月 03, 2023
ダイゴさんがオレを呼んで、笑いながら近づいてくるとき、なんでオレに構ってくれるんだろうなって、そんなことを考えてた。ダイゴさんって、すごく忙しい人なんだ。オレがわかんないような話もたくさんするし、仕事であちこちに出回ったりしてる。それでもこうして合間を縫ってオレについてきてくれるのが、たまに不思議でしょうがなくなる。オレは楽しいけどさ、多分ダイゴさんから見たオレの楽しいなんて、これっぽっちも楽しくなくて、きっと全部、子供騙しに見えてるんじゃないかって。別にダイゴさんがそう言ってたわけじゃないけど、普通、そう思うだろ?きらきらした大人の世界にいるダイゴさんを考えるたび、あー、ぴったりだなって、そう思う。石の話をしてる時のダイゴさんは、ちょっと違うかもしれないけど。とにもかくにも、自分と同じ隣を歩いて、同じ目線で話をしてくれるのが、なんだか変でしょうがない。オレと一緒になって泥だらけになって笑っていたのを見た時、いつもの服がぐちゃぐちゃで、少しだけ居心地が悪くなったのを覚えてる。ねえダイゴさん、どうしてオレと一緒にいてくれるの?そんな質問もできないまま、今日はなにをしようかって笑いかけるダイゴさんに、オレは相変わらず、いつもの小さな世界を見せることしかできなかった。
3月 27, 2023
ふとした時に、Nは自分とは違って大人なのかもしれないと思うことがある。正確には、そうあるべきなのかもしれない、と思うんだ。自分よりも随分と大きい背が隣に並んでいるとき、Nのことを見上げては、まるで違う世界の人みたいにみえる。別に普段はそんなふうには思わないけれど、時折、本来あるべき様子と目の前のNがぐちゃぐちゃになって、アンバランスさに視界が歪む。パシオにはいろんな人がいるから、ずっと誤魔化されていたピントが少しだけ、くっきりと合うのかもしれなかった。本当は、きみとともだちになんかなり得なかったのかもしれないね。でもNがぼくの名前を呼んで笑いかけてくれるたび、ぼくはきみと対等なんだって簡単に錯覚できた。Nが何者であるかなんて、そんなこと考えなくたっていいって。ぼくはきみと同じ英雄で、きみはぼくのともだちだって、ただそれだけでいいって思えるから。不安定に並ぶぼくら、いびつかもしれないけど、きっとなにも、間違っていないよ。
3月 25, 2023
ほろり、と涙が流れた。どうしたのN、と聞けば、なにがだいと返ってきた。自分が泣いていることに気づいていないみたいだったので、泣いてるよとなるべく努めてやさしく言った。驚いた顔をしたNが顔に手をやり、自分の手がうっすらと濡れることでようやく気づいたのかちいさく本当だ、と漏らす。幸いにも周りに人はいなかったので、とめどなく溢れる涙を眺めていたぼくは無理しなくていいよ、と言った。声をあげて泣くことはなくただぽろぽろと溢れる涙をNが服の袖で拭う。あくまで論理的に、Nが今考えていたことをぽつぽつと話しはじめたので、ぼくはひとつひとつ話をきいた。Nは再会した自分の親について、ずっと考えているようだった。世界は白も黒もなく灰色に混じり合っているとわかって、こんな風に悩むことは人間らしいのだとそう言われて、時には苦しいけれど、こうしていることが悪いことだなんて思わないとNは言った。キミたちもいるしね、と笑うNをみて、ぼくは胸が痛くなる。自分で気づかず、涙を流していたのに?もしぼくがNと同じ立場だったら、どんな風に思うんだろう。Nはやさしいからそうあれるだけで、きっとぼくはNみたいになれないだろうな。でも今ここにいるぼくは、Nに笑っていてほしいと思ったから。かける言葉がない代わりにNのことを抱きしめたらNは驚いたみたいだけど、まもなくしてトモダチみたいだと的外れなことを言って笑っていた。ポケモンみたいでもなんでもいい。Nが笑ってくれるなら、なんでもいいよ。心配してくれてアリガトウとぼくのことを抱きしめ返してくれた部分がほんのりあたたかい。子供みたいに抱き合うぼくらに、やさしい風が吹いている。
3月 20, 2023