No.34, No.33, No.32, No.31, No.30, No.29, No.28[7件]
自分の中の記憶と
そう思われているのも当然だという
感情の形が
合わさりきらない
気持ちが悪い
鏡の前に 青白い顔をした自分の顔がある
わざと自分で毒を含んでしまえば
信じるよりも楽だった
あなたの触れた口づけが
存外弱く、かすかなものであったから
どうにもできなくなる
実は原田さんのことが嫌いで
なんてはずもなく
ただ僕のことを
誰かの一番の星にするということが
のみこんでいいことなのかわからなかった
ずっと、ほしかったのかもしれない
傷ついているから
傷口から漏れ出るゆらめきが
瞳から落ちるひと粒が
写した顔がぼやけてしまう
もうすっかり
なにも見えなくなってしまった
10月 19, 2025
ボクたちはなんでも知っていて、優しさに触れたところから花が咲いていくのがみえたから。ずっと言いたくなかった。花が咲いたら散っていなくなってしまうから。殺風景な雪景色、悴んだ手が霜焼けてあかぎれが滲む。酸化した赤が黒に変わる。変わらないままでいたかった。本当に、ボクはずっとそればかり考えていたんだよ。
いつかの日、絵名の手が同じくらい冷たかったことを思い出す。ねえ、ここまでくるのはこわかった?傷だらけの手のひら、涙まじりに灯りがともる。つぼみが芽吹いて花がひらく。ボクらの春はここにあるから。見慣れた景色がボクを呼んで、涙がほどけてひかりに消えた。
12月 25, 2024
君の呼吸はやさしい海みたいだね。そう言いたくても司くんは起きてなかったから、喉の奥から出ることなく溶けて消えた。瞬きしたら見失ってしまいそうなくらい輝いているのに、静かな司くんは驚くほどに穏やかだから。まるで誰もいない波打ち際みたいに。あたたかな海、君の呼吸が僕の足を濡らしては引いていく。それの繰り返し。司くんは顔を近づけても起きなかった。呼吸はずっと規則的だ。僕は引き寄せられるようにして、頬に口づける。唇からあたたかい体温が流れ込んで、残った感触が少しずつ沁み込んでいく。
口づけた部分から溶け出して、身体の一部にしてほしかった。そうしたら、司くんが振りまくちかちかと明滅する光になって昇華されたい。君の一部になって、そしてそのまま、空に消えたい。まぶたを下ろす。司くんが一人立つステージを想像して、スポットライトの下できらきらと瞬いては夜に消えていく星を見た。君に手を引かれて、僕も同じように、光となって。君のまぶたは上がらない。もうしばらくは、ひとりでここにいるよ。
8月 06, 2024
カイルに好きだっていうたびにはいはいとてきとうにあしらわれて幾度目、俺は本気だよっていうと彼女がいるのに本気になるなよと冷たい目であしらわれた。俺はてきとうなんか言ってなかった。カイルの呼ぶ声はいつも特別だったし、持ち前のキレた頭が活躍したときは誇らしかったし、カイルが隣で笑ってるのは嬉しかった。なあ、俺はさ、カイルが俺にとって特別であってほしくてさ。
僕に好きだと言うくらいならウェンディにフェイスタイムでもなんでもしてやれとカイルは言う。正論だ。カイルはいつも、大体正しかった。でもそういうときほんの一瞬、ほんのわずかだけ覗く(ほんとうに、ほんとうにわずかなんだ)落ち着いた目線ににじむ拗ねた様子がお前のほころびみたいで、俺は、少しうれしいって思っちゃうんだよ。
5月 08, 2024
スタンは気づいてないみたいだけど、想像しているより早く僕の方に限界がきた。例えば僕が永遠に親友として君の隣りにいるとして、刻一刻と僕の中にあるこの正しくないものがウイルスみたいに蝕んで、いつのまにか僕を覆い尽くすだろう。体内細菌と同じだよ。まるで僕のような顔をした何かが僕の身体を動かすんだ。それってものすごくぞっとするほど恐ろしいことだよ。だってそれって、僕のようであって僕じゃないじゃないか。だけど残念ながら、細菌と同じ、いやそれ以上に、その正しくないものは僕のもので、僕そのもので、僕もそうであることに自覚的だった。
君の隣で親友の顔をする。それは僕の喜びで、君の喜びだった。僕の心にあるこの邪魔なものを切り取れたらいいのに。そうしたら、きっと間違いなく、君の隣で正しい親友でいれるから。
正しい街 / 椎名林檎 より
5月 08, 2024
ボクのからだが死んでしまって、ボクのからだはうまれかわった。電子の世界で構築されたボクのからだが、キミと並ぶことは当然なく、それでもボクは「光彩斗」で、ボクは「ロックマン」だった。熱斗くんに話していないボクのひみつが、時折データの欠陥のごとく思考をよぎっては、隙間風が入るようなそんな気分になる。「さみしい」のかもしれない。口から出そうになることは一度もなかったけれど、一人のとき、時折そんなことを考える。ボクがこうしてうまれかわって、大事な時間を一緒に過ごしているだけで「うれしい」、それなのに、欲張りな自分が少しだけ顔を見せて、同じように隣に立ちたかったとささやいている。ボクが「光彩斗」として、ありのままのすがたで。キミと並んで過ごす時間は、いったいどんな景色が見えるんだろうね。
熱斗くん、朝だよ、遅刻しちゃうよ。そう呼びかけると、眠たげな熱斗くんがおはよう、ロックマンと言った。それでよかった。ほら、いつも通りの一日がはじまる。
nowhere / [.que] より
5月 14, 2023
子供のこころの成長は存外早いものだ。ハルトが固い表情で自分の手を掴んできたり、背後から抱きしめるようになってきた。挙句の果てにはぼくはグルーシャさんのことが好きですと言ってのけた。ぼくは彼くらいの年の頃、これくらいマセたようなことを言っていただろうか?スノーボードに夢中で、それどころではなかったかもしれない。とにかく、事態を納めるのが急務であることだけはわかっていた。ハルトの好きがまっすぐに届くたびに痛みを感じるけれど、ぼくはハルトを守ってやりたかった。慈愛なのか、それとも。そんなこと考えなくたって答えは出ている。ぼくは大人として、きちんと分別がついていることを演じなければいけなかった。ハルトが思っているほど、世の中はやさしくない。ぼくはハルトの必死な手を握り返さず、抱きしめられた腕をやさしくほどいた。すべての行動が、ハルトも、ぼくの心さえもナイフで傷つけられていくようだった。血だらけのぼくたちに、ここは寒くて痛くて、たまらないね。せめてぼくの正しい部分が、彼の手を取り、あたたかな場所へと導いてあげられるように。傷口に冷たさがしみる。こんな思いをするのは、ぼくだけで良いんだよ。
4月 17, 2023