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No.9, No.8, No.7, No.6, No.5, No.4, No.37件]

類司


 僕は司くんのこと、「  」だと思ってた。

 でもそうじゃなかった。そうじゃないから好きなんだ、わかるよ。こんなこと、わかってたはずだった。でもちゃんと自覚した途端、眩暈がするほど恐ろしくなって、耳を閉じたくなる。お前が好きだと言われるのも、気持ちを受け取れないと言われるのも、どちらも恐ろしかった。わがままだってわかってる。僕は司くんに言葉を渡した、渡してしまったのだ。だからその分、言葉を受けとらなければならなかった。与えられた分は必ず返す。天馬司はそういう人だと知っていた。

「司くん」
「気持ちは、ままならないものだね」

 何も受け取りたくない僕のことを、馬鹿なやつだと君は笑うだろうか。

2月 06, 2022

類司


 司くんを起こすために、まずはじめにパスワードが必要だった。目の前に並ぶ入力項目は残念ながらノーヒントで、僕には見当もつかない。こんなもの、もしかしたら誰にもわからないかもしれないけど、僕にとっては知った気でいたことが簡単に覆される心地だった。あんなに近くにいたとしても。近くにいるからこそ、気づかないのかもしれない。もし仮にこのパスワードが解けたら、キスをして目覚めを待つらしい。僕のキスでも起きてくれる? そうしたら、きっと君を一番に抱きしめることができるから。

7月 18, 2021

類司


 現実はそんなに甘くないらしい。忘れないでね、僕のこと。そうして夢の中で司くんに別れを告げるのが僕なりの悪あがきなんだけど、それも虚しく次の日には司くんは綺麗さっぱり忘れている。僕だけが覚えているなんて、なんだかすごく不平等だな。僕ばかりが、君のことを好きになってしまうことも。夢の中で出会う君が、僕と出会うことを心底驚くような反応も、翌日学校で出会った君が、夢も見ないほどの快眠だったことを告げるのもすっかり慣れてしまったけれど、それでも僕は心の中で、「せめて夢の中の君の記憶に残っていればいいのに」「この夢が、君と共有できていればいいのに」と思わずにはいられなかった。笑ってくれていいよ。だけど僕はそれくらい、君と心を通わせたいって思ってるってことさ。

2月 11, 2021

類司


 ひと粒、きらりと光る星が落ちた。瞬く間にその光は僕の手を取り、類! ときらきらと弾けるような声で名前を呼んだ。一緒に行こうと誘う手のひらは温かい。図々しくするりと入り込んでくるのに、こんなにも居心地がいいなんて、僕はすっかり、彼のとりこということなのだろう。ねえ司くん、もっとたくさん、楽しいショーがしたいね。そう一言いえば、当たり前だと笑う。振りまかれた星屑が、視界の端で瞬いている。

1月 27, 2021

敬良


 暗闇が嫌いだ。足がすくんで動けなくなるくらいには。恐ろしくってたまらないこと自体、隠してるわけじゃないけれど、その深い部分にある恐れに触れられるのだけはずっと避けてきて、多分みんなもなんてことないように思ってるはずだ、と信じている。だけど、深い闇の隙間から時折仄かな明るみがみえて、それを向けているのがお前なんだってわかるとき、居心地の悪さと、いいなと思う、他人事みたいな気持ちが思い浮かんでは消えた。ぼーっと見つめていると、お前は「お前にだよ」ってはっきり言うもんだから、何も変わらないね、と思わず口元が緩んでしまう。この馬鹿みたいにうずくまった姿を見せてしまったらどう思うんだろう。まあ、どう思うかなんて関係なく、できれば見せたくないんだけどさ。

1月 21, 2021

敬良


 どうして今オレの横にいるのはお前なんだろうなあ。やっぱり近くにいるべきじゃないって思うけど、なんだかんだオレはお前と出会えたこと自体は、後悔してないし、むしろ嬉しいんだよ。お前がオレと違ってずっと真っ直ぐで、あったかくて、陽だまりみたいなやつでさ。その暖かい部分を分けてもらえたとき、ジリジリとどこか焼けるみたいに少し痛かった。オレにはできないことをお前はできると思ってるんだけど、同じようにオレには持てないものを生み出せるから、それを受け取ると、悪い反応を起こしたみたいに、黒く焼けて塵になっちゃうんだよな。それでも離したいとは思わなかったよ。だってお前がオレのために分けてくれた部分だったから。嬉しかったなあ。でもオレばっかり嬉しくて、お前はきっと辛いだろうから。オレはどうしてもお前が悲しむようなことしか言えなくて、でも、それを曲げることもできないから。だからさ、ほら、やっぱり隣にいるべきじゃないんだよ。オレの横でぼろぼろ泣いてるお前をみてこんなことばっかり考えてるオレは、お前からしたら酷いやつなんだろうし、自分でもちょっと、冷めてるかもって思うよ。だけどそう思っちゃうからさ。思っちゃうことって変えられないよな。ごめんなあ良輔。オレ、お前にずっと、謝ってることしかできないかも。近くにいてやれなくてごめん。お前の思ったようにならなくて、ごめんな。あーあ、やっぱり、会わなきゃよかったのかなあ、オレたち。

11月 15, 2020

敬良


 自分勝手だ と思う。

 俺はあいつを引き止められるような言葉を知らなかった。何よりわがままだって思ったんだ。結局、近くにいて欲しいとか、そういうことをいうのは、あいつにとって2個下のわがままでしかないんだと思う。だから何も言えない。余計なことを考えるのはやめればいいのに、伊勢崎のあの顔を目の前にすると、突然足がすくんで何も言えなくなった。らしくないといえばらしくなかった。けれど俺は、多分あいつのことを知りすぎてて、知りすぎてるから、わからないことに何か踏み入ることを躊躇する、のかもしれない。本当はもっとわかってやりたかった。追いつこうとしても追いつけないし、追いついても、隣に立つこともなく、きっと知らぬ間にあいつを追い越している。俺は隣に立てない。決まりきってることなんだって今ならわかるよ。なあ、そうだよな、伊勢崎。

11月 08, 2020