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No.30, No.29, No.28, No.27, No.26, No.25, No.247件]

ブルーフレンド


 フレンドになってくれる?そう言ったきみの照れくさそうで少しだけ遠慮がちな姿がまだ記憶に新しい。俺は本当にうれしかったんだよ。一歩を踏み出す素振りだけできみは深く入り込んでこないと思っていたし、俺自身も自然に振る舞おうとして、きみと目を合わせるとその青さに飲み込まれてしまう。奥の奥のきみに少し近づけた気がした。そんなもの、実際はないのかもしれないけど。噛み合わなくて、途端に話ができなくなると風穴が空いたみたいに冷たい風が通り抜けていった。気づいたらきみのための場所ができている。勝手に遠ざけていたのは俺の方なのにね。いつか、もっとうまく話せるときがくるのかな。この前はごめんと言うきみの真っ直ぐさに手を伸ばした。青の中、きみが嬉しそうに笑っている。

5月 11, 2025

残されたもので話すよ


 ざあざあ雨が振り続けている。久しぶりに会えたから一緒にどこかへ行きたかったような気持ちと、部屋の中で向かい合ってプラモを組み立てているのが「らしい」と思う気持ちがごちゃまぜで、でもなによりヒロトが俺の家にいるのが変な感じがする。ユッキーを家にあげるのはなんてことないのに、今日は地面にぴったりと足がついていない。自分の家なのにそうじゃないみたいで、階段を滑り落ちないか少しだけ不安だった。
 自分が考えたことをかき消して目の前の作業に集中しようとするけどうまく行かない。ふと顔を上げたらコップが空になっているのを見つけたから、飲み物取ってくるねと言って席を立つ。空になったコップを無意味に洗って、ついでに自分の手も念入りに洗った。俺ばっかりが変になっている気がして恥ずかしくて、それを落とそうとするみたいに冷たい水に自分の手をさらす。今まで何度もヒロトだって俺と同じだってわかってきたはずだったのに、いつも自分ばかりが緊張している気がした。俺ばっかり変な理由はわかっているんだけれど。ヒロトが心を明け渡してくれるたび、自分の目の前で火花が散って消えていった。もう見えなくなればいい。蛇口を締めれば、近くの窓に水を打ち付ける音がする。俺にもそうしてくれたらいいのに。多分きみの前でも、普通でいられるから。

5月 3, 2025

潮騒


 吹いた風に潮気が混じる。ひらけた海の向こう側、なにも見えやしないのに。きみに昨日なんて言ったっけ。思い出せない。突き放すようなひどいことを言って、気がついたら現実世界に戻っていた。流された空白が責め立てる。足元の草花が風で擦れて小さな音を立てて消える。なんでかずっと、きみのことを考えてしまう。なにも知らないくせに。本当は、なにも知ろうとしていないのは俺の方だった。そういえば、きみの住む街にも海はあるのだろうか。きみのことをよく知らない。聞いたら教えてくれたのかもしれない。波の音がきこえる。きみにもこの音が聴こえる?そうやって聞けたらよかった。早く全部飲み込んでくれ。息をきみにあげてしまいたい。そうしたら、この波もきみのものにできるから。

4月 24, 2025

寝ても覚めても


 横たわるきみにキスをしたい。そんなことをしてもきみは起きないと思うけど(俺は鍵を持っていないから)もしくはきみはここに生きているから、触れたら起きてしまうかもしれない(だって急に触られたら驚くでしょ?)
 ここに魔法はないけれど、俺もきみもここにいるから。夢なんかじゃなかった。データの集合なんかじゃなくて、もっと質量のあるきみのことを知っているから。横たわるきみに花をあげる。花が添えてあったら、ずっと目が覚めなくたってきれいだと思った。見てないから見ていられる、見てないから好きでいられる。馬鹿みたいだ。早く目が覚めたきみがなにしてるのって言ってくれたらいいんだけど。

4月 14, 2025

あふれる


 口を開く。誰もいないところで俺の声がひびいて、演出上の風の音でかき消されていった。俺のデータも消えてくれただろうか。彼女が見ていると思ったら、少しだけこそばゆい気もするけれど。
 後悔したくないのに、きみとの距離が定まることに足が震える。また自分のせいで失ってしまったら?そう思うと立ち直れる気がしなかった。最近リクが俺と向き合ってくれているような気がして、ようやくつながれたと息をつくことができたのに。俺の中にまだ安心できないものがうごめいていると思うとやりきれない。もう十分だと思うのに、どうしてこんなに惹かれているのかわからなかった。近づいたのに離れてしまう。全部俺のせいで。
 俺の手を握って。いや、きみの手を握ってもいい?どうしてこころをひとつにしたいんだろう。きみの手と重なったら、熱をもって一つになれる?きみになりたいわけじゃない。だけど、俺のことを知ってほしかった。すきになってほしかった。0と1の世界のすみで、またひとりきりで泣いている。

3月 26, 2025

疾走


 きみのやわらかな態度が、笑い方が、こころが、手をとって向こう側へ。俺が握り返さなくたって何度でも話しかけてくれたよね。間にある境界線を許してくれなかった。あのとき奪わさせないといっていたけど、俺に対してもそう思うのかな。本当は、ずっと友達になりたかった。今はあっという間にきみの中にいて、きみの手を握り返そうと思えるし、きみから目を逸らすことだってしない。きみが最初に言ったんだよ、目をそらさないでって。そうでしょ?
 重い足取りは随分軽くなっていて、遠くへいるきみが随分とすぐ近くにいる気がしてならなかった。きみが後ろを向いても離さない自信があった。風みたいに駆け抜けていく。そこにいてね、今からそっちに行くからさ。

3月 20, 2025

やがて消える


 罰してほしいんだと思う。そうやって自分の至らなさを追求されて、傷ついたら満足できるのかといわれれば多分そうではない。だけどこうやってなにもないみたいに自分だけがここにいて彼女をどうにもできなかった事実が重くのしかかっては、いても立ってもいられなくなって早く俺を殺してくれとそういう気持ちになった。かと言って、そうやって自分のことを傷つけることが彼女との約束を破ることになるのも明白だった。ただひたすら罰して、俺を生き地獄の中に放り込んでほしい。永遠にそうしてくれれば、ここに自分がいる意味が多少なり生まれる気がした。世界のすみっこの方で、誰に気づかれることもなくなにもない場所で一人でずっと火に炙られていたい。でも、火を点けるのがきみではかわいそうだから。俺のしらないところで、俺をしらないところでしあわせでいてください。

3月 12, 2025