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類司


 類は馬鹿だ。大馬鹿者だ。オレのことを少しもわかっていない、大馬鹿者だ、と思う。お前のこと、どうして嫌いにならなきゃいけない? つくづく難しいやつだ。でも、それだけ慎重なのだとも思う。そこには同意してやろう。オレも、お前が嫌がることはしたくない。

 言うべきことこそ口にできないなんて、案外ままならないものだ。撤回しよう。お前だけじゃなく、オレもつくづく大馬鹿者なんだ。

 類は迷子みたいな顔でこちらの様子を窺っていた。類はずっと優しかった。今だって、触れた手つきは変わらず優しいままだ。ひどいものか、こんな、こんな。

 なあ類、オレは、ずっとお前に触れてもらいたかったよ。

2月 14, 2022

類司


 僕は司くんのこと、「  」だと思ってた。

 でもそうじゃなかった。そうじゃないから好きなんだ、わかるよ。こんなこと、わかってたはずだった。でもちゃんと自覚した途端、眩暈がするほど恐ろしくなって、耳を閉じたくなる。お前が好きだと言われるのも、気持ちを受け取れないと言われるのも、どちらも恐ろしかった。わがままだってわかってる。僕は司くんに言葉を渡した、渡してしまったのだ。だからその分、言葉を受けとらなければならなかった。与えられた分は必ず返す。天馬司はそういう人だと知っていた。

「司くん」
「気持ちは、ままならないものだね」

 何も受け取りたくない僕のことを、馬鹿なやつだと君は笑うだろうか。

2月 06, 2022

類司


 司くんを起こすために、まずはじめにパスワードが必要だった。目の前に並ぶ入力項目は残念ながらノーヒントで、僕には見当もつかない。こんなもの、もしかしたら誰にもわからないかもしれないけど、僕にとっては知った気でいたことが簡単に覆される心地だった。あんなに近くにいたとしても。近くにいるからこそ、気づかないのかもしれない。もし仮にこのパスワードが解けたら、キスをして目覚めを待つらしい。僕のキスでも起きてくれる? そうしたら、きっと君を一番に抱きしめることができるから。

7月 18, 2021

類司


 現実はそんなに甘くないらしい。忘れないでね、僕のこと。そうして夢の中で司くんに別れを告げるのが僕なりの悪あがきなんだけど、それも虚しく次の日には司くんは綺麗さっぱり忘れている。僕だけが覚えているなんて、なんだかすごく不平等だな。僕ばかりが、君のことを好きになってしまうことも。夢の中で出会う君が、僕と出会うことを心底驚くような反応も、翌日学校で出会った君が、夢も見ないほどの快眠だったことを告げるのもすっかり慣れてしまったけれど、それでも僕は心の中で、「せめて夢の中の君の記憶に残っていればいいのに」「この夢が、君と共有できていればいいのに」と思わずにはいられなかった。笑ってくれていいよ。だけど僕はそれくらい、君と心を通わせたいって思ってるってことさ。

2月 11, 2021

類司


 ひと粒、きらりと光る星が落ちた。瞬く間にその光は僕の手を取り、類! ときらきらと弾けるような声で名前を呼んだ。一緒に行こうと誘う手のひらは温かい。図々しくするりと入り込んでくるのに、こんなにも居心地がいいなんて、僕はすっかり、彼のとりこということなのだろう。ねえ司くん、もっとたくさん、楽しいショーがしたいね。そう一言いえば、当たり前だと笑う。振りまかれた星屑が、視界の端で瞬いている。

1月 27, 2021